4月 桜




かつて組を相手取って代打ちをしたアカギが、いつしか組の代打ちをするようになった。
シャツにジーンズ姿だった彼が、いつからか派手なスーツ姿で来るようになった。
皮肉げに口元をゆがめていたのが、やけに明るい笑い声をあげるようになった。

訪ねてくるたびにどこか変わっていくアカギに、再会の嬉しさを感じると同時に不安をも覚えていた南郷は、
その夜たずねてきたアカギが、最後に会った半年前からどこも変わっていないことにほっとしていた。





窓を開け、隣の家の桜を見ながら縁側で酒を酌み交わす。

時折ふらりとたずねてきては、ほとんどの場合、朝起きたら姿を消している。
そんなことがあるたびに、もう二度と彼には会えないかもしれないと考えた。
だから、たとえどんなに彼が変わろうとも、今こうして並んで縁側に腰掛け、夜桜を見ながら酒を飲めるのは、
とても貴重で嬉しいことなんだと、南郷は自分に言い聞かせて不安を打ち消した。

そう、以前のように組に刃向っていたら、命がいくつあっても足りないじゃないか。
今ではアカギの才能を誰もが認めていて、裏の世界では一目おかれる存在となっている。
気が向いた勝負しかやらないといっているけれど、守ってくれる組がいるからこそ、好き勝手が許されるのだろう。
彼の身近に、彼の才能に惚れこんでいる者たちがいることは、嬉しいよりも複雑な気持ちの方が大きかったが、
今はともかく、こうして自分のすぐそばにいてくれる。


ほどよく酔いが回って、アカギの手を取った。いつもより熱い。

「おまえ、熱あるんじゃないのか?」
「…酒飲んでいるからでしょ」

切り返されて、そう言われればそうかと、その時は納得した。
だが熱っぽく潤んだ目に誘われて口づけを交わし、やはりいつもより熱い口腔と色づいた吐息に、
口づけだけでは物足りなくなって、たまらず彼を抱きしめた時、やっぱり熱があると確信した。
額に手を当て、風邪薬あったかなと立ち上がりかける南郷を、熱い手がひきとめる。

「本当に何でもないんだ…寝てみればわかるよ」
「寝るってお前…そんな身体で」

躊躇する南郷に、アカギは月明かりに照らされた夜桜のように、嫣然と笑ってみせた。

「そんなに心配なら、隅々まで調べたら?」

あからさまな挑発に、南郷はごくりと喉を鳴らした。





「ぁ…っ」

熱い身体は、うっすらと汗をかいていた。
仰向けに横たえた白い身体には、無数の傷跡があったが、見た限りでは、新しい傷はなかった。
ひときわ目立つ、右肩の傷痕に舌を這わせ、乳首を摘まんだ。
アカギは熱のこもった息を吐きながら、南郷の愛撫に敏感に反応した。
最初は心配していた南郷も、アカギの熱と感度のよさに、次第に行為に夢中になっていった。

「あっ…あっ…」

早くもそそり立ち、先端から透明な雫をこぼす分身を口に含んで舌を絡めた。
音を立てて何度も吸い込むうちにそこは唾液にまみれて、余分な雫が白い茂みを濡らして、奥の穴まで伝った。
そこはすでに指が入りそうなくらいにほぐれていたが、念のため潤滑剤の助けを借りて潜り込んだ内部は、蕩けるように熱かった。

分身を咥えながら中に潜り込ませる指を増やし、肉襞の感触を確かめるように指の腹で擦っていると、
アカギは反らせた白い喉を震わせ、声にならない悲鳴をあげながら、南郷の頭を抱えて口内に欲望を吐き出した。
苦い甘露を喉を鳴らして飲み干し、先端に溜まった雫まで吸い上げて、南郷はアカギの身体を、指を入れたまま返させた。

獣の体勢にして挿入しようとしたとき、南郷は驚きの声を上げた。

「おまえ…これっ!」
「ククク…やっと気付いた」

背中から腰にかけて、上気した肌に桜が浮かび上がっていた。
さっきまで見ていた夜桜のように、白い背中に枝が広がり、夢のように花びらが散っている。
しかし目にした時にははっきりと浮かび上がっていた絵は、しばらくすると、すうっと消え始めた。

「これって刺青、なのか?」
「おしろい彫りっていうらしいね。彫らせてくれって言われた時には、てっきり普通に墨入れられるとおもったけど」

何でもないことのように言うアカギに、南郷は顔を曇らせた。

「おまえなあ…刺青なんか入れたら、もう消せないんだぞ。本当にヤクザになっちまうぞ」
「相変わらずズレたこと言ってるね、南郷さん」

いいから早くきてよ、とせがまれて、南郷は渋い顔のまま、アカギの中に欲望をねじ込んだ。

「あああん…っ」

指で感じる以上に熱い内部が、南郷を迎え入れた。
中でますます脈打って、固く大きくなっていく欲望が、ドロドロに溶かされる錯覚に陥った。
意識をまるごと持って行かれそうになりながらも、南郷は何も考えられずに夢中で腰を動かした。

「あっ、ああんっ、ああんっ、あんっ」

固い肉棒を突き入れられる度に、アカギははしたない声を上げて締め付ける。
狭くて熱い内壁を激しく擦り、責め立てると、上気してうっすらと汗をかいた背中に、また桜の木が浮かび上がってきた。
白い背中に咲く満開の桜、散りゆく花びら。清くて、潔くて、そして美しい。

彫り物を入れたことで、またアカギが遠くに行ってしまったような気持ちになる一方で、
アナルに男を受け入れ、背に桜を咲かせて喘いでいるアカギを、綺麗だと認めざるをえなかった。

寂しさと焦燥と、自分でもよくわからない苛立ちを頭から追いやろうと、南郷は自分を締め付ける熱に集中した。

「あんっ…ああんっ…イイ…ッ」
「アカギ…ッ」

両手で腰骨を掴んで、限界まで抽挿を繰り返し、アカギが後ろだけの刺激で達するまで、南郷は無心に責め立てた。





「気に入ったみたいで、よかった」

後ろから抱きしめ、もうすっかり模様が消えてしまった白い背中に、名残惜しく口づけをくりかえしていた南郷が、
何のことだと尋ねると、アカギはクク、と笑った。

「五回もバックでしておいて、何はないでしょ」
「うっ…」

言葉につまる南郷に背を向けたまま、アカギは小さくあくびをした。

「もし気に入らなかったら…取り返しつかないからさ…」

南郷がえっと目を見開いた時には、アカギはもう寝息を立てていた。
何か着せようかと迷ったが、今夜は暖かい。南郷は布団を引っ張り上げ、白い裸体を包み込むように抱きしめた。
まだ彫ったばかりなのだろう。南郷の胸に、アカギの背中の熱が伝わってくる。


この見事な桜を残した彫師は、きっとアカギに惚れたのだろうと南郷はおもった。
彫られている間、アカギはどんな表情をしていたのだろうか。
針が肌を刺す痛みに瞳を潤ませ、甘い息を吐き、欲情すらしていただろうか。
彫師はアカギと寝たのかもしれない。
彼の身体が、これが久しぶりの行為ではないことを教えていた。
それを不義と、責める権利はおそらく自分にはないのだろうが。

せめてここにいる間だけは、自分だけのものでいてほしいと、南郷は抱きしめる腕に力をこめた。





おわり





最近周囲で刺青しげるの話題を目にするのでかいてみました。
最初は刺青いれてほしくない派だったけど…あってもいいね!

アカギ部屋