また一滴、顎から鎖骨へと滴り落ちた。
くぼみに落ちた雫はそこにとどまらずに、なめらかな肌を伝い、浴衣の合わせ目へと吸い込まれていった。

雫が落ちた先を眺めながら、濁り酒のような色の肌だ、と仰木はおもった。
いわゆる白皙と呼ばれるような、はっきりした白ではなく、瓶を傾ける度に常に中の白色が入れかわるような、どこか不安を煽る色。
白色の靄の中に得体の知れない何かを隠しているような、そんな不透明な色。

その白い肌は蒸すような暑さにじっとりと汗ばみ、はだけた浴衣の胸元から、片膝を立てて割れた裾から垣間見える太腿から、透明な汗の玉が、ツッ…と流れ落ちる。
汗が伝い落ちた先には何も身につけていないのか、と仰木はごくりと喉をならした。

きわどいところまで割れた合わせ目に釘付けになっている仰木の視線を知ってか知らずか、
アカギは障子を開け放した部屋と廊下の間の敷居に座布団を引き、柱にもたれてタバコを吸っている。
廊下の先にはこの屋敷自慢の庭が広がっていた。

鮮やかな緑を眺めても、気温が下がるわけでもない。
たとえ屋敷じゅうの障子やガラス戸を開け放していても暑いことには変わりないのに、アカギの表情はやけに涼しげだ。

「暑くないのか」

思わず問えば、アカギは仰木をちらりと見た。

「暑いに決まってるでしょ。扇風機を頼めば断られるし」

涼しげな顔だが、声には不満が滲み出ている。

「あんな貧乏くさいもん、屋敷に置いてたまるか」

クーラーなら入れてやると言ったのに、あれは音がうるさい、冷えすぎるのは嫌だと断られた。
わがままはどっちだ。

口を真一文字に結んで拒絶の意を示せば、アカギは今度は顔をこちらに向け、正面から見据えてきた。

「ただでさえ暑いのに、あんたの視線が身体中に絡みついて、よけいに暑苦しい」

仰木はぎくりと身体をこわばらせた。こちらをまっすぐに見据える目は笑っていない。

「すまん…」

不埒な目で見ていたことは確かなので、素直に謝ると、アカギはすっと立ち上がった。
そして仰木の前に立つと、きっちりとスーツを着込んだその身体に覆いかぶさるように自分の身体で肩を押した。
されるがままに背中から畳に倒れた仰木にのしかかり、アカギはクク…と笑いながら、持っていたタバコをその脇にある灰皿に押し付けた。

「まるで全身を舐めまわされているみたいだった。そんなにやりたいなら、試してみるかい?」

大きな猫に乗られた気分だ。はだけた胸元から、乳首の先端に雫がたまっているのが見える。
誘惑にあらがえず、仰木はしなやかな背を抱き寄せ、その乳首を雫ごと吸った。

「あっ…」

口にした果実は、しょっぱかった。すでに硬くなっている実を舌でなぶりながら、もう片方の胸にも手を差し入れた。

「ぁ…ん…」

裾の合わせ目にも手を這わせる。
白い腿の内側は、想像した通り、しっとりと濡れていた。
男にしては体毛の薄い、だが引き締まった腿を撫でまわしながら、口の中の果実に歯を立ててやると、アカギはびくんと身体を震わせ、仰木の頭を抱え込んだ。

両方の乳首が固くなり、腫れあがったように大きさを増すまで口と指で交互にその感触を堪能した後、体勢を入れ替えた。
一見細身だが意外にしっかりと筋肉のついた、それなりに重い身体を組み敷くと、白い髪がパサリと乾いた音を立てて畳に散った。

湿り気を帯びた薄い茂みに手を伸ばし、奥にあるものをいっぺんに掌におさめて揉みしだけば、アカギは目元を赤くして、潤んだ目で仰木を見た。
指先が屹立した根元に触れるたび、ため息のようなかすかな声を上げて腰を揺らめかし、ねだるように押しつける。

「ぁあん…」

手のひらを前へと移動させ、最も敏感な部分に触れてやると、アカギは恍惚とした表情で嬌声を漏らした。
すでに張りつめている先端からはとめどなく先走りがあふれ出て仰木の掌を濡らす。
仰木は手を滑らせると、濡れた指を奥まった場所へと差し入れた。

「はっ…あぁ…」

指の腹で入口の周りを円を描くように撫でると、行為に馴れた様子のそこは、挿入を期待するようにひくひくと蠢いた。
ほんのすこし指を含ませただけで、貪欲に締めつけてくる。
最初はゆっくりと、次第に遠慮なく指を出し入れする間、アカギはしどけなく脚を開き、指の動きにあわせて腰を揺らしながら、自ら両の乳首を弄って快感に身をゆだねる。

仰木は指を増やして内部を掻きまわしながら、もう片方の手で浴衣の帯を解いた。
無駄なく引き締まった白い腹が露わになった。
屹立したものの先端からは欲望がとめどなくあふれ、固い腹筋のついた腹を汚している。

仰木は帯を解いた手で自分の前を寛げ、とっくに固くなっている赤黒い欲望を取り出すと、白い脚を抱えあげ、いやらしい秘所を一気に貫いた。

「はっ…あああ…ッ」

いきなり押し入ってきた雄の大きさに、さすがのアカギもつらそうに眉を寄せる。
予想外の熱と締め付けに仰木も顔をしかめた。快感に引きずられそうになるのを意地でこらえ、心持ち乱暴に、中を穿ち始める。

「あっ、あっ、あんっ、あんっ」

脚を限界まで開かせ、真上から腰を落とすように突きこむと、深い結合にアカギは苦しそうにしながらも淫らな喘ぎ声をあげた。

ひとしきり突いた後で一度引き抜き、獣のように這わせて後ろから突き入れる。
腰を打ちつけながら乳首を弄ってやると、アカギは感じ入った声をあげながら、下敷きになっていた浴衣に欲望を放った。

「いやらしい身体だな…もっと鳴かせたくなる」

仰木は力の抜けたアカギの腰を後ろから引き寄せ、自分の膝をまたがせた。
下から突き上げ、再び乳首をいじりながら白い首筋を舐める。
やはりしょっぱい味がしたが、この男からは不思議と匂いがしない。
これだけ汗で濡れているのにもかかわらず、だ。

ゆっくり突き上げているうちに、アカギの分身も再び頭をもたげてきた。
愛撫をねだるそこに手を伸ばし、やや上気した顔をこちらに向かせた。
そして薄く開いた唇の間から舌を差し入れ、熱い口腔を存分に味わった。

欲望を吐き出してしまえば後に残ったのは苦い後悔で。
なんだってよりによって、こんなやっかいな奴に手を出したんだ、きっとこのうだるような暑さのせいだ、と八つ当たり気味に紫煙を吐き出した。

「おまえ、やたらとうちのもんに手を出すなよ」

まんまと網にかかって寝てしまった自分が言えたせりふではないが、一言いっておきたかった。

隣に裸のまま寝そべってタバコを吸っていたアカギが顔をあげた。

「何の話?」

「誰と寝ようと勝手だが、この前おまえにつけていた世話係を病院送りにしただろう。
お前は客人だが、面倒をおこされちゃ困るんだよ」

仰木の言葉にアカギはああ、あれね、とようやく合点した。

「あれは向こうから粉かけてきて、退屈だったから一回相手してやっただけですよ。
そしたら俺の女だとか何とか言いだして、ちょっと鬱陶しかったんで」

仰木はこめかみを押さえた。
もしかしなくても自分もその「退屈しのぎ」の相手をさせられたということだろうか。

「相手が欲しいなら男でも女でも、いくらでも用意してやる。頼むから…」

「あんたが相手してくれればいいよ」

掬うように見上げられ、仰木は言葉につまった。
一度寝たからって愛人面するような愚を自分は犯さない。
あなただけは特別、なんていうのも商売女の常套句だ。
男にたっぷり貢がせるための見え透いた手管なんだ。

「あと扇風機ほしい」

「…」

結局その夜、屋敷に初めて扇風機が届けられることになった。




おわり

一昨年夏インテで配布した仰赤ペーパーです。
仰赤本も出したいのよ。

アカギ部屋