赤木しげるという男は、本当に因果な奴だ。
どんな小さな事にも賭けるタネがあるなら、思いっきりに吹っかけずにはいられないらしい。

「南郷さん、コイツら誰が最初に死ぬかな」

ゴロ寝でなんとなく流していたテレビでは、ちょうど二時間枠のサスペンスが始まっていた。
温泉宿が舞台の、良くある作風だ。

「さぁなぁ。あの太った女あたりじゃないか?」
「それならオレは、あっちの文学生風の奴」

何も犯人を当てようというわけでもない、ふと出た話題程度で。
結果がアカギの予想の通りでも、特に驚きもしなかった。
が、『勝ち』の報酬として、出たばかりの給料は、その日の夕食に一夜で消えた。

時には、石焼き芋屋が今日は流して来るか、だとか。
時には、上の階の夫婦喧嘩は何時間続くかだとか。
他愛もなく振られて来る話に、つい乗ってしまうこちらも悪いのだろうが。
あんまりにさりげないから、そしてそんな他愛の無い話をする時間が、和やかに見えてしまう彼の表情が、好きなものだから。

だが、身の丈に合わない美酒美食と、次の日からの壮絶な節約とを、何度か繰り返しては、流石にそうも言っていられない。

「南郷さん。どう思う?これから行って、銭湯は混んでるかどうか」
「知らん。というか、今度は何を賭ける気だ、お前」

もう今月は火の車だぞ、と口を堅くすると、若者は肩を竦めた。

「このあたりで買える飯なんてもうタカが知れてるし毎回暑苦しい泣き落としされるのもかったるいし」

散々に呟いておいて、一歩踏み出してくる。
怒鳴っても良い暴言だったが、反射で思わず一歩引く。
それほど覗き込んできた顔は、今までに無く楽しげだった。
脳内に警鐘がなる。これは必ずまともでない。

「キスしよう。オレが勝ったら」
「…は」

耳を疑って、出た声は間抜けだった。
顔もきっと相当間抜けだったのだろう。

「変な顔」

アカギは、まるで興ざめしたように踵を返して、さっさと洗面器を持って玄関を出て行ってしまった。
あわてて後を追って。
そして、いつもより早めに到着した行き着けの風呂屋は籠をとりあうほどに、なぜか盛況で。

その帰路、唐突に奪われた。 それが最初のふれあいだった。 



頂き物部屋


ぬら孫でお世話になっている雛衣さんがツイッターで投稿されていた南赤を
掲載許可をいただいてUPさせていただきました!
19しげるとのことです。
容赦なく給料一か月分の夕食をむしる(いや命や腕にくらべたら破格の扱いですが)かと思えば、
キスをねだる19…つまり彼の中では南郷さんとのキスは料亭の食事と同等ッ…!
しげるかわいい・・・!(>▽<)
南赤もぜひまた書いてくださいませ!ありがとうございました!