会いたいな、と思っているときに電話がかかってきたり、
落ち込んでいるときに何も聞かずに抱きしめてくれたり。
言葉にしなくても通じてしまう不思議が、恋人たちにはあるものだけど。
・・・オレたちの場合は、そういうのとは何か違っている。
バトル後のタイムアタックも無事終了し、そろそろ撤収しようかという頃。
涼介にスケジュールの確認をした後そそくさと帰り支度をする拓海の背中に
声がかけられた。
「藤原」
「今日はダメです」
こちらも見ないままぴしゃりと言い放った拓海に、啓介は不機嫌そうに眉を寄せた。
「・・・まだ何も言ってねーけど。俺」
「え、もしかして違う用事で声かけたんですか?」
もしそうだったらすげー恥ずかしい、オレ。
とかおもいながらそろりと振り向くと、そこにはどこかむくれた顔の男前が立っていた。
「・・・いや、たぶん違わねーけど・・・」
さっきより幾分力のない言葉に、拓海は再び眦をきつくする。
「オレ、明日仕事なんですよ。解散してすぐ帰っても3時間くらいしたら配達なんです、
って休憩の時言ったじゃないですか」
だから今日はホテルには行けない。言外にそう言ったつもりだったのに。
非難をこめて見上げると、聞き分けのない恋人は口を尖らせて反論する。
「んなこと言って、おまえいつも仕事じゃねーかよ。昨日だってキスしかさせなかったくせに」
「バトルの前にできるわけないでしょ!」
そりゃ、あんたはいいよ。突っ込まれるオレの身にもなってほしい。
だが、このところ拓海が休みを取れなくて、ここ一ヶ月ほどご無沙汰なのも事実。
啓介もいいかげん煮詰まっているようだ。
拓海の事情をわかっていながら引き下がれない。会うことすらままならなかった寂しさと、
バトルの興奮をひきずった身体と。反論できない代わりに抱き込まれて唇を塞がれて、
理性で制御できない気持ちを口移しで伝えられては、決心もつい揺らぎそうになる。
拓海だって同じ寂しさと熱を抱えている。できるなら夜が明けるまで啓介と一緒にいたい。
だがむやみに当日欠勤したりはしたくない。配達もしかりだ。
納得させないことにはこのキスから解放してはもらえないんだろうなと思いつつ、熱に
浮かされそうになる頭を叱咤しながらなんとか考えをめぐらせる。
「・・・っ、啓介さん・・・今度、休み、取るから・・・ッ」
「いつだよ」
「わかんないけど・・・今週のいつか・・・」
「・・・・・・・」
それでも唇を解放しない啓介に、拓海は内心ため息をつく。
どうすればこの駄々っ子をなだめられるのか、わかっている自分が恨めしい。
拓海はためらいながら、拓海の腰に押し付けられているそこに手を伸ばした。
そこは抱き寄せられた時からとっくに硬くなって自己主張している。
「・・・今日は、口でしてあげるから・・・」
頬が熱くなるのを感じながらぼそぼそと言うと、啓介はようやく欲しい言葉を得たとばかり、
満足そうに唇を離した。
目が合っただけで相手の考えていることがわかったり、
キスだけで相手に気持ちが伝わったり。
言葉にしなくても通じるものは、確かにオレたちにはあるのだけれど。
・・・いっそわからないふりをしてしまいたい。とおもってしまう拓海だった。
おわり
もどる
|