体温

 

 

すこし厚くなった布団の中でも朝方はやっぱり寒くて、まどろみながらも
隣にあるぬくもりにごそごそと擦り寄る。と、無意識なのか、やっぱり夢の中に
いるはずの啓介の両腕が、擦り寄る拓海をより懐深くに抱え込む。
密着した肌越しに伝わる体温と、力強い鼓動。
こうしているだけで啓介の生命力とか、エネルギーを分けてもらっているようで、ひどく心地よい。

やわらかい光をまぶたの外側に感じる。外はすっかり冷え込んでいるだろうけど、
ガラス越しに入ってくる朝の光はやさしさとほんのりとした暖かさだけを部屋の中に送り込む。

朝・・・?

(やばっ、配達・・・!)

途端にびくっと飛び起きかけて、今日は文太に頼んできたことを思い出す。
啓介と一緒に泊まっても、空が白むまで一緒にいることはめったにない。
たまには朝までゆっくりしてけよー、と今隣で眠っている男に盛大に拗ねられて、
仕事の休みに合わせて配達も代わってもらったのだ。

「・・・んー・・・」

ほっと力を抜いたものの、さっき飛び起きようとしたのに気がついてか、
啓介が眉を寄せてさらに拓海を抱き寄せようと腕に力を込める。
まるで逃がすまいとしているかのようだ。

帰る時、この腕の中から抜け出すのはいつも一苦労だ。
啓介は寝ている間に拓海がいなくなるのを嫌う。
だったら起こした時にさっさと起きろよといいたくもなるが、寝ぼけている状態の啓介に
一言告げたつもりでも後で喧嘩になるので、
拓海が帰る時間になればベッドから蹴落としてでもたたき起こしている。

だけど、今日は休日。朝目が覚めてすぐ傍に感じる、啓介の体温と鼓動――
いつもはこの腕を振りほどくのに必死で浸る余裕もないが、今は好きなだけこうしていられる。

ささやかな幸せを満喫しようと、拓海は鼓動を刻む胸に小さな耳を押し当て、
自分をしっかりと抱え込む広い背中に、応えるように腕を回した。

 

 

腕の中で身じろく気配に、意識が浮上する。

 

おわり

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