二人雪見

 

 

今日、親父が寄り合いに出かけてて。オレ午前中店番なんすよ。

電話口で申し訳なさそうにそう言った拓海に、ならそっちに行くとFDを駆って一時間ちょっと。
途中でちょっと思い立ってコンビニに寄って目当てのものを購入して。
いい加減通いなれた道を通り、これまた見慣れた店先の横、いつもはハチロクが収まっている
車庫に車を止めた。

「啓介さん」

エンジン音を聞きつけた拓海が店の中からぱたぱたと現れる。こころもち頬を上気させて。

 

「・・・何ですかこれ」
「見りゃわかんだろ」

二人がいるのは拓海の部屋ではなく店に続いている居間。店番のためということもあったが、
最大の理由はこの部屋にコタツがあるためだ。拓海の部屋にも小さな電気ストーブはあるが、
この時期の藤原家はけっこう寒い。

二人で角をつくるようにもぐりこんだ後、啓介ががさがさとコンビニの袋から取り出したそれに
拓海は小首をかしげた。
たしかに見ればわかる、おなじみのパッケージだが。冬限定のそれに、寒いときにわざわざ
そんなもん食べる奴の気が知れないと常々思っていたものだが。
けげんな顔をしている拓海の目の前で、啓介はさっさとパッケージを開封する。赤いラベルを
はがすと中には雪玉のような白い小さな塊が二つ。

「ほら、口開けろ」

付属のフォークに一つを突き刺すと拓海の口元に差し出した。これがDのメンバーと一緒の
ファミレスとかなら断固として拒否するが、両手までコタツにつっこんでいる今は断る理由もない。
素直に開けた口の中に放り込まれたそれは、舌先に冷たさと甘みを伝えてくる。
コタツでぬくもりながら食べるアイスのおいしさに、おもわず頬がほころぶ。

「な、うまいだろ?」

幸せそうな拓海の表情に、啓介が得意そうに笑った。

「おまえ、冬にアイスなんか絶対やだとか言いやがるから」
「・・・まさかこの間のこと根にもってたんですか」

赤城の麓のコンビニで、何を思ったのかアイス食おうぜと言い出した啓介に拓海は断固首を
横に振った。それでなくとも山の上は寒い。拓海の感覚では冬にアイスを食べるなど
とんでもなかった。

「そんなに食いたいなら一人で食えばよかったのに」
「一人で食っても意味ねーだろ。おまえとコレを食いたかったの」

空になったフォークを押し付けらる。おまえの番だぞ、と啓介の目が期待に輝いている。
あえて一個だけ買ってきたそれ。
啓介が何をしたかったのか、さすがに鈍い拓海でも了解して肩が落ちた。

まあ・・・人目もないし、うちの中だし、コタツは暖かいし、いいか。
ちょっとくすぐったい思いにかられながら、拓海はプラスチックのフォークにつきさした雪玉の片割れを、
啓介の口の中に放り込んだ。

 

おわり

もどる