コントラスト

 

 

夕食の片付けも済ませた後の、夜のひととき。
テレビではお笑い芸人がコントをやっている。
リビングのソファに座っている進の脚の間に腰掛けて、セナは細い肩をゆらしてくすくすと笑っていた。

「おもしろいか」
「くくくっ・・おもしろいですよう〜」
「どこがおもしろいのか、俺にはさっぱりわからん」

先ほどからツボにはいりまくっているセナに対し、進は番組の間中にこりともしない。
むしろ、眉間にシワが刻まれている。

一緒に生活をしてみてつくづく、二人の共通点はアメフトだけだとわかる。
進はゲームもしないしマンガも読まない。映画もセナが誘えばつきあうが、さほど興味がないようだ。
それに対してセナは、進ほどトレーニングに熱心ではないし、日々の食事のカロリー計算もできない。
進にいわせれば「鍛錬に無関係な無駄なこと」がセナは大好きだ。

こんな僕のことを、進さんはどうおもっているんだろう。
自分などと一緒にいて、つまらなくなはいだろうか。
セナの好きなテレビ番組も映画も、進はこうして一緒につきあってくれるけれど、
本当はトレーニングに時間を費やしたいんじゃないのかな。

そんなことを考えているうちに、いつしかテレビを見ることも忘れていたらしい。
ふいにたくましい腕にひょいと腰をもちあげられ、身体を反転させられた。
びっくりするセナの大きな瞳を、進のまっすぐな瞳がのぞきこむ。

「どうした」

セナは何でもないです、と目をそらそうとしたが、のぞきこんだ目がそれを許さない。
思ったことは溜め込まないでその場で言ってくれと、無言の圧力を加えてくる。
その圧力に押し負けて、セナはぼそぼそと、先程考えていたことを口にした。

「・・・確かに、この番組の良さは俺にはわからんが」

ああ、やっぱり。セナは肩をおとした。

「だが、この番組を見て笑っている、お前の顔を見るのは好きだ」

至近距離でストレートに言われて、セナの頬が赤くなった。

「自宅でトレーニングに時間を費やすのは、他に興味のむくものがなかったからだ。
今はお前とこうしていることが楽しいし、たとえ興味がなかったことでも、おまえと共にすることで、今まで気がつかなかったことに気づかされる」

好きなテレビ番組や、みたい映画や、新しくできた喫茶店。
興味のない進を無理やりつきあわせているという後ろめたさがあったから、進の朴訥とした言葉がとてもうれしい。
それでも、進のトレーニング時間をセナが削ってしまっているのは事実で。

「進さん、やっぱりもっとトレーニングしたいんじゃないんですか?」

進の膝に乗ったまま、真意を問いただすと、

「おまえと暮らしてから、俺は弱くなったか?」

逆に質問されて、慌てて首を振った。
一緒に暮らしていても、フィールドの中の彼はまるで別人だ。
試合で対峙する度に、前回とは桁違いに進化している実力を見せつけられて、戦慄させられる。

「学校にいる間は、空き時間にトレーニングをしている。いたずらに量をこなせば強くなれるというものでもない。
この部屋では、できる限りお前と共に過ごしたい」

そういうお前こそ、俺といて退屈ではないのか、と聞かれて、セナは進の首に両腕を回して抱きつくことで返事をした。

 

好きになったのは、何もかもが自分と違うひとだけれど。
重要なのは共通点ではなく、一緒にいたいと思う気持ち。

 

 

おわり

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