ギャンブル
[ギャンブル] 3rdダウンまでに10ヤード進まなかった場合、4thダウンは普通キックで攻撃権を手放すが、あえてそれをせずに通常攻撃を仕掛けること。
『泥門3回目の攻撃はわずか1ヤードゲインで終了〜。王城の鉄壁ディフェンスを前に、手も足も出ない模様。 ゴールまで20ヤード、残り時間わずか10秒。さあどうする泥門!?』 カレッジリーグ1部の準決勝。この試合で関東の覇者が決まる。 高校の時から因縁の対決ともいうべきか。王城と泥門は、多少のメンバーの入れ替えはあるものの、かつてと ほとんど同じ顔ぶれでフィールドに立っている。 「どうするヒル魔。フィールドゴールで延長戦に持ち込むのか」 武蔵が腕組みしてヒル魔に問う。 「すみません、僕が進さんを抜けないばっかりに・・・」 セナはうなだれる。3年前の関東大会を思い出す。あの時も、進のトライデントタックルの前になすすべもなく、目の前が真っ暗になった心地だった。自分たちが負ける、という危惧よりも、進に失望されたという絶望のほうがより大きかった。 結局、あの後セナは進を抜いて、誰にも譲ることのできない、進のライバルの座を守ったと思ったけれど。 足ががくがくと震えて止まらない。 「延長戦なんざ糞チビの足がもたねーだろ。こいつ以外に進を止められる奴は誰もいねー。 ヒル魔は正面からセナを見据えた。 「これが最後のチャンスだ。何としてでも進を抜け」
「フィールドゴール狙いか。どう思う、進?」 敵チームの様子を見ながら、高見は進に聞いた。 「小早川の足はもう限界です。ヒル魔が延長戦に持ち込むとは思えません」 いや、もうとっくに限界は超えているはず。進は確信していた。 それでも、と進は思う。 進もこの半年間、ただ安穏と過ごしていたわけではない。 『僕はいつまでも、進さんの一番のライバルでいたいんです』 そういってくれた、セナのきらきらした目を失望で曇らせないために、 (「一番」じゃない。「唯一」だ) 強敵は確かに他にもたくさんいる。だが、自分の中でライバルと認める存在はただ1人だ。 進はまっすぐに高見を見た。 「必ず泥門は勝負をかけてきます。小早川は必ず俺が止めます」 (来い、セナ)
泥門チーム側を見ると、ヒル魔に何かを言われていたセナがこちらを向いた。
『泥門4回目の攻撃、ギャンブル――!』
おわり |