渇望

 

 

――俺の勝ちだ。アイシールド21.
――こんなものなのか?お前の力は
――俺が最強の好敵手と認めた男、小早川セナは

――こんな程度で終わる男だったのか?

 

 

「・・・ナ・・・セナ」

力強く揺さぶられて、ぽかりと目が覚めた。
月明かりに照らされた進の顔が、なぜかぼやけて見える。

「何を泣いている?」

ああ、ぼやけて見えるのは、涙のせいか。
自分がなぜ泣いていたのか、記憶をたぐり――そしてまた涙が出た。

「進さんに負ける夢、みた」

夢の中での進の、失望と落胆が入り混じった目。
それは、もはやお前は俺の敵ではないと雄弁に物語っていた。

「僕は何一つ進さんに敵うものなんかなくて、だからいつか進さんにおいていかれたら、
きっと僕なんか見向きもしなくなる」

それを考えただけでたまらなく悲しい。
今は裸で抱き合って眠る、そんな関係だけれど、それでも。
いや、だからこそ。

「俺、いつまでもあなたの好敵手でいたいです」

ぼろぼろと涙をこぼしながら、進に訴える。
大きな手のひらが、とめどなく流れる涙をぬぐった。

「それでも、お前は俺に勝っただろう」

静かな進の声がセナの心に響く。

「俺も、お前に抜かれる夢をみることがある」

意外な言葉に、セナの涙が止まった。

「夢の中で、お前は俺の手が届かないスピードで走り抜けていく。
だから俺は、お前に抜かれないように鍛錬を続ける。
いつまでもお前の好敵手でありつづけるために。
俺が認めた好敵手は、今も昔も、お前だけだ 」

あくまで淡々と語る、進の真摯な言葉に、止まっていたセナの涙がまた溢れ出す。
鍛え抜かれたたくましい二の腕が、セナの華奢な体をすっぽりと包み込み、
無骨な手で、セナの髪を優しく撫でた。

 

「もう泣くな。お前に泣かれると、どうしていいかわからん」

 

おわり

小説部屋