筋肉痛の理由は
「うっ・・・」
同じ食卓を囲んで夕食を済ませたあと、汚れた皿を手にキッチンへ一歩踏み出した途端、右脚がぎしりと軋んだ。
「右脚をどうかしたのか」
びっこをひきながら皿を運ぶセナに、進が声をかけた。
「いえ、なぜかこっちの脚だけ筋肉痛で」
痛めたわけではないと言い訳しつつも、セナは首を傾げる。
最近、毎日ではないが、朝起きると右脚だけがこうなっていることがある。
スポーツをやっているのだから筋肉痛は珍しくないが、片方の脚だけ、というのがどうも解せない。
「そういえば、マッサージした時も痛がっていたな」
トレーニングのメカニズムやスポーツ医学の勉強もしている進が眉をひそめる。
「部活で無理なトレーニングでもしたのではないか?
筋肉痛になるのはいいが、片方の筋肉だけ鍛えるようなやり方はよくない」
「や・・・それが、まったく心当たりないんですけど」
走りこみやラダーなど、脚を鍛えるトレーニングは毎日しているが、
片脚だけこんなに痛くなる練習をした覚えはついぞなかった。
部活が原因ではないとすると、とセナは日常生活を振り返ってみる。
進と一緒に暮らす毎日。これほど脚が痛くなるようなことといえば、
夜のアレくらいだけれど・・・。
(でも、それだって両脚が痛くなるハズだし)
大きな手に両脚を捉まれて、大きく割り広げられた体勢を思い出し、
頬をかーっと赤く染めながらセナはぶんぶんと首を振る。
原因がわからない痛みというのは、なんだか気持ち悪い。
そう思いつつも、その夜はとうとう原因がわからずじまいだった。
その翌朝、未明。
セナは珍しく、進に起こされる前に目を覚ました。
正確には、身体を動かせない苦しさに、無理やり起こされたのだ。
背中と、特に右脚が、重い。
寝返りを打とうにも、背中に覆いかぶさる重石がびくともしない。
寝返りを諦めて、今度は脚に乗っている重石をどけようとするが、
これも想像以上の重さでやはり動かない。
それでも寝苦しいので、何度か脚に力を入れて重石をどかそうと試みているうちに、ぱちりと目が開いた。
今まさに、セナの脳の中で、「片脚だけの筋肉痛」と「理由」がかちりと結びついた。
(犯人はこの人だったんだ・・・!)
寝るときは進と並んで仰向けに寝ているセナだが、朝目覚めた時には、たいてい左向きに寝ている。
多少寝苦しくても、いつも進が起こすまでは起きないから今まで気づかなかったが。
現在左向きで目覚めたセナは、半ば進に覆いかぶさられ、脚を絡ませられて、つまりはがんじがらめに抱き込まれていた。
(進さん〜〜〜)
進に抱きしめられるのは好きだが、ずっと同じ体勢でいるのはつらい。
もぞもぞと重い身体の下から抜け出そうとすると、
「・・・む・・・」
セナの腰にまわされた大きな手がぴくりと動いて、セナの身体の下に手を入れ、自分の身体の下に引き戻す。
ついでにセナの脚に乗せている重い脚も、ますますがっちりと絡めてきた。
そうしてセナを再び自分の懐深くに抱きこむと、大きな安堵のため息をひとつついて、また規則正しい寝息をたてはじめた。
(もう〜・・・)
たぶんもうすぐ起きる時間だ。
重くて苦しいけれど、起こすのはなんだかかわいそうだから。
起きたら盛大に文句を言おう、と心に決めて、セナは進の寝息を聞きながら目を閉じた。
おわり
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