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クリスマスボウルに向けて、泥門は早朝の朝練から午後は9時すぎまで、練習漬けの毎日をおくっていた。
秋大会から時には綱渡りのように勝ち進み、勝ち進む度にさらに強いチームと戦うことになるのだから、練習時間と密度は増しこそすれ、決して減ることはなかった。
だが関東大会優勝を果たしてからは、朝練の時間も早まり、セナはそれまでの日課であった進との早朝ランニングもできなくなってしまった。
ランニングそのものは、今までを上回る量を泥門の仲間とこなしているが、そんなわけで進とはここ一週間近く会っていない。
毎晩、電話で話しているけれども、進は、朝から夜まで練習漬けで疲れているセナを気遣って、会話も短めだ。
電話だけでは寂しい、会いたいという気持ちはもちろんあったが、帰宅するなり玄関で寝てしまうような今の状況では、どうすることもできなかった。

クリスマスボウルまであと4日、となった今日。ヒル魔が珍しく8時に練習を切り上げた。
この差し迫った時期に何で、とおもったのはセナだけだったようで、他のメンバーは疑問を差し挟むでもなく、さっさと片づけをはじめた。
セナの疑問は部室に入った瞬間に解消された。

「セナ、16歳のお誕生日おめでとう!」

第一声は、部活の後半で姿を見せなかったまもりと鈴音だった。
テーブルに所狭しと並べられたチキンやピザやサンドイッチなどの食べ物、真ん中には大きなバースデーケーキ。
目をまるくして立ちすくんでいるセナに、栗田やモン太や雪光が次々に声をかける。
三兄弟にはなぜかヘッドロックをかけられ、頭をぐしゃぐしゃにされた。
バースデーソングでお祝いされて、ろうそくを吹き消し、腹いっぱい食べて。
テーブルの上の食べ物もあらかた片付いた頃、ヒル魔はちらりと時計を見て、セナに言った。

「おい糞チビ、もうここはいいからさっさと帰れ」
「ええっ」

まるで追い出すような言い方に、セナは戸惑った。時計を見れば、いつもならまだ練習している時間だ。
他の皆はといえば、まだ楽しそうに騒いでいる。もう少しここにいたい、と困惑するセナに、まもりがフォローを入れた。

「ヒル魔くんたら、こんな日にわざわざ一人で帰すことないでしょ。セナも皆と一緒に帰りたいよね?」
「黙ってろ糞マネ」

ヒル魔はぴしゃりと遮ると、セナに荷物を放り投げ、「いいからさっさと帰れ!明日朝練遅刻しやがったらぶっ殺すぞ!」と、あろうことかマシンガンの雨を降らせながらセナを部室から追い出した。

 

 

(???なんだかよくわからないけど、気遣ってくれたのかな)

少しでも早く帰って、身体を休めるように?
セナはほうっと白い息を吐き出した。外の空気は刺すように冷たかったが、火照った頬には心地よかった。
誕生日を、こんな風に祝ってもらったのは初めてだった。
両親は毎年(クリスマスもかねて)この日にケーキやごちそうを用意してくれるけれど、家族以外で誕生日におめでとうと言ってくれるのはまもりだけだった。誰かが自分の誕生日を覚えていてくれているということが、こんなにも嬉しいことだとはおもわなかった。

「へへっ」

思わず顔を綻ばせながら、校門を出た、その時。
駅の方向に足を向け、校門のすぐそばに立っていた王城の制服を着た人物を見た瞬間、セナは知らず立ち止まった。
どさりと音をたてて、肩からスポーツバッグが落ちる。

「・・・し・・・」

唇が震えて、言葉が出てこない。
代わりに見開いたセナの目にみるみる涙がたまっていく。

「小早川」

電話越しではない、直に耳に届く彼の声。
会えて嬉しいはずなのに、涙が止まらない。
立ちすくんだまま、ぼろぼろと涙を流し続けるセナに、進は困ったように眉を寄せると、自分からセナに近づいて、セナを懐に抱きしめた。
力強い腕、たくましい大きな身体に抱きこまれて、セナはここがどこであるかも忘れて、広い背中にすがりつく。
涙を制服につけたら悪い、とか、こんなにしがみついたら制服がシワになってしまうとか、頭ではわかっていてもどうにもできない。
会えないのは仕方がない、と思っていた。会えなくても大丈夫、とも。
だけど、自分で思っていたほど、自分は大丈夫じゃなかったらしい。

進さん、とようやくそれだけを何度も口にしながら、涙の止まらない顔を胸に押し付けるセナの背中をあやすように撫でながら、進は優しい低音で「誕生日おめでとう」と言ったのだった。

 

 

おわり

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