あなたに会いたくて
「Set! Hut! Hut!」 気温35度、湿度80パーセント。 「アメリカの方が涼しかったなあ〜」 何度も死の危険を感じたデス・マーチも、喉元をすぎればよい思い出だ。 「体の方は不思議とばててないけどな〜暑さで頭がぼーっとしてくるよな〜」 先ほどのセナのつぶやきに、文字通り頭から湯気を出しているモン太がこたえた。 ほほ〜う、お前らに使えないと困る脳みそがあんのか?」 背後からかかった声に2人はぎくりと肩をこわばらせた。 「バカは体で覚えろ!地獄のパース!地獄のスラローム!」 間髪なく乱射されるマシンガンに追い立てられながら、
(進さん・・・) 意識が朦朧としてくると、思い浮かぶのはいつも進の顔だ。 進さんともう一度戦いたい。 「進さん、どうしているかなあ」 王城は富士へ合宿に行くと、携帯の留守電に進のメッセージがはいっていたけれど。 「会いたいなぁ」 つぶやきながら、ついスピードを緩めてしまっていたらしい。
帰宅後、泥のように眠っていると、枕もとの電子音に起こされた。 (むにゃ・・・でんわ?) ほとんど何も考えずに手探りで携帯を掴み、目も開かぬままで耳に当てる。 「ふぁい・・・」 受話器から聞こえた低い声に、セナはがばっと飛び起きた。 「進さん!?」 ずっとずっと聞きたかった声。答える声も弾んだ。 「はい!進さんも、もうこっちに戻ってきてるんですか?」 携帯のディスプレイを改めて見ると、『公衆電話』と表記してある。 『小早川・・・?』 考える前に言葉が出てしまった。 「僕はもっともっと強くなって、進さんと戦わなくちゃいけないんです。 言葉と一緒に涙もこぼれおちる。何が言いたいのか、もはや自分でもわからない。 「想っているだけじゃ足りないんです。進さんに会いたい」 えぐえぐと駄々をこねるセナに、進は朴訥としながらも優しさの滲んだ声で話しかけ、
日中は30度を越す猛暑でも、早朝はまだひんやりと涼しい。 (いつ帰ってくるのか最初に聞いておけばよかった) 朝起きたら、当然通話は切れていて。 深いため息をつきながら前を見ると、はるか向こうから誰かが走ってくる。 (え・・・?) 願望のあまり、他人を見間違えたかと目を見はる。だがその人物は、まっすぐセナを見ながら、 「進さん!」 セナはたまらず、それこそタックルする勢いで、進の胸に飛び込んだ。
昨日の夜遅くに帰ってきたのだと、進は説明した。 「携帯を持とうかとおもう」 ぽつりと言った進の言葉に、セナはびっくりして胸に埋めていた顔を上げた。 「俺も会えない間、おまえのことばかり考えていた。 俺も小早川に、いつでも会いたいし、いつでも声を聞きたい。 深い瞳の色でじっとセナをみつめながら言う進の首筋に、
おわり |