ハロウィンの夜

 

 

 

年に一度、死者があの世から戻ってくる日-―万聖節。
その前夜にはそれぞれの家のドアの前にはジャック・オ・ランタンが掲げられ、
普段は静かな夜の住宅街を小さな魔物たちが徘徊する。

「お菓子をくれないといたずらするぞ!」

彼らは町中の戸を叩いて菓子をねだる。もらえない家にはカラースプレーやトイレットペーパー、
腐った卵などを使って報復をする。中には毎年いたずらをしかける家もある。だがこの日ばかりは
大人達も何も言わない。いつものように早く寝なさいとも言わない。小さな魔女や小悪魔達は
この時とばかりに人気のない通りを練り歩く。

「・・・だいたい全部まわったよな。じゃあ帰るか」

大きめの黒いマントを着た少年が仲間に言った。年の頃は10歳くらい、一緒にいる仲間には彼より
大柄な子供もいたが、年齢に似合わず身についている貫禄と、黒く輝く瞳に宿る迫力が
他の子供たちを従えて当然とでもいうべき風格があった。

「そうねーもう終わりかぁ」

魔女に扮した少女がが残念そうに答える。そこへ、

「いや、まだあの家があるぞ」

小太りのこうもりが異を唱えた。この少年以前はいじめられっこだったが、今のリーダーに
助けられて以来、ずっと彼の後をついてまわっている。

こうもりの言葉に、彼らは顔を見合わせた。

「あの家ってあの・・・幽霊屋敷か?」

うっそうとした木々と蔦にかこまれた、昼間でも不気味な家を思い浮かべて、一同はごくりと
唾を飲んだ。

「・・・あの家には誰も住んでないんじゃ」

「ママもあそこは空き家だって」

途端に及び腰になった仲間たちだったが、一方ではこんな声もあがった。

「・・・でもあの幽霊屋敷も制覇したっていったら俺達英雄になれるぜ」

だがそう提案する者も自分が行く勇気などさらさらない。子供たちの目はいつしか期待を込めて
リーダー格の少年に集まった。自分たちのリーダーは決して臆病者ではない。きっと自分たちの
期待と好奇心を満足させてくれるはず。

仲間たちの無言のプレッシャーに、少年はため息をついた。

「―わかった。偵察に行ってくる」

 

 

 

怖くないといえば嘘になる。
幽霊屋敷の噂はいろいろ聞いていた。昔殺人事件があったとか、それ以来買い手がつかず、
昼間でも犠牲者の霊が徘徊しているとか、近所に住んでいるクラスメイトが飛んでいってしまった
ボールを取りに行ったら裏庭に大きな鎌をもった死神がいたとか・・・だが臆病者と思われるのは
高耶のプライドが許さなかった。

高耶は意を決して、さび付いた門に手をかけた。
ギギギ・・・と不気味な軋みをたてて門が開く。
明かりひとつついていない家は巨大な影のように見えた。

呼び鈴らしきものはない。少しためらった後、重厚な木の扉をノックした。
最初は控えめに、次はもう少し大胆に。

(やっぱり誰もいないのか)

内心ほっとした、その時。
微かな音を立てて、ドアの取っ手がゆっくりとまわった・・・。

 

 

よく叫び声を上げて逃げ出さなかったものだとおもう。
だがそうしなかったのは高耶が勇敢だったからというよりはむしろ、恐怖のあまり硬直して
しまったからなのだが。

 

扉はギギィー・・・と軋みながら開き、闇の中に白いものがぼうっと浮かび上がった。

「--ッッ!」

 

 

 

「何か御用ですか?」

しゃべった!高耶は目をいっぱいに見開いたまま、おそるおそる顔を上げると、白いものは
男物のワイシャツで、その上には人間の男の顔があった。

若い男だ。よく見るとなかなか整った顔でもある。さらによく見ると、闇にまぎれてはいるが、
黒のスラックスをはいた足もちゃんとあった。

なんだ、人間じゃないか。
今度こそ安心した高耶は長身の男をきっとにらみ上げた。

「ハロウィンっていったら用は一つだろ。出すもん出すか、それともこの家を犠牲に差し出すのか」

精一杯虚勢を張る高耶に男はああ、と合点がいったように頷いた。

「そういえば今日でしたね。すっかり忘れていました」

何しろさっき着いたばかりだったので、と困惑したように眉を寄せる。
そうした何気ない表情がいちいち絵になる男だ、と内心思いながら高耶は返事をまつ。

 

「すみませんが、お菓子を用意するのを忘れていて・・・その代わりといってはなんですが、
上がって話でもしていきませんか?食料は買ってきたので、フレンチトーストくらいならつくりますよ?」

高耶はしばらく考えたが、「いいぜ」とうなずいた。
いたずらよりこの家の住人に会ったことのほうがポイントは高そうだ。

「幽霊屋敷」の廊下を先に立って歩きながら、男は話しかけた。

「私は直江信綱といいます。あなたは?」

「・・・仰木高耶」

 

よろしく、高耶さん。と男が微笑みかける。
ハロウィンの夜の、二人の出会いだった。

 

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10月ペーパーにかいたもの〜を一部改稿しました。ペーパーではリーダーは別の子供だったんですが、
やっぱり高耶さんは子供のときからリーダーよね!!(>_<)
ってかこれじゃわけわからないすよね・・・(^^;)
いや、ハロウィンの夜に出会う二人をかきたかったんです(そのままじゃん)。
一応高耶10歳、直江21歳の設定なんですが、これって続くんだろうか・・・(汗)