ハロウィン

 

 

「『トリック・オア・トリート』というのは、日本語で言えば『菓子をくれないならばイタズラをするぞ』という、ハロウィンの日に近所の家をたずねて言う、子供たちの決まり文句だ。菓子を与える家には何もせず、何も与えない家にはイタズラをしていいという風習だ」

はあ、とセナは目をまるくする。こういうイベントに無関心だとばかりおもっていた進が、ハロウィンについて解説しているのはなんだか不思議な感じだ。

「お前はトリックを選んだ。つまり俺にイタズラをしたいと望んでいるのだな」

え?と思うまもなくぐるりと視界が回り――いつの間にかセナは、ソファに寝そべった進に馬乗りになっていた。
いきなりとらされた大胆な体勢に慌てるセナの下で、進はいつになく楽しそうな色を瞳の奥に浮かべて、お前の好きにしていいぞ、とわずかに口角をあげた。

「さあ――どんなイタズラをしてくれるんだ?」

 

 

 

自分から動くのがこんなに恥ずかしいとは思わなかった。
いつもきっかけをつくってリードするのは進の方で。セナは心地よい熱情に押し流されるように身をまかせていればよかった。
ソファに横たわったまま動かない進に覆いかぶさってキスをして。深く口腔をまさぐっている間に身体が熱くなって反応して。
キスには応えるけれど、それ以上は何もしようとしてくれない進に焦れて、セナは進のTシャツを脱がせた。
鍛え抜かれたたくましい身体があらわになる。セナはあこがれてやまないその身体のあちこちに口づけ、手のひらで筋肉の隆起をいとおしむように撫でた。

セナの唇と手のひらはしだいに下降して、わずかに震える手がとうとうスウェットのズボンにかかった。進が静かに見下ろしているのはわかっていたが、セナ自身の身体が、すでにこのままでは帰れない状態になっていた。
下着ごと引きおろすと、すでに大きさを増したものが勢いよく飛び出してくる。セナはすこしためらってから、雄雄しくそそり立つそれを、口の奥へと咥えこんだ。
いつか教えられたように肉棒に舌を絡め、口すぼめて吸うようにすると、中のものはたちまちどくんと脈打って、より大きさと硬度を増した。
チュ、チュ、と水音をたてながら、そのまま夢中になって舌を絡めていると、頭上で聞こえてくる進の呼吸も次第に荒くなり、セナの頭を挟んでいる両脚もびくびくと痙攣した。

「もう・・・限界だ、セナッ」

進の手がセナを引き離そうとしたが、セナはやめなかった。口の中でびくびくと震える進の分身を、想いをこめてひときわ強く吸い上げた。

「くっ・・・!」

理性を手放した進が口腔に放った体液を、セナはごくりと飲み込んだ。
もういい、という進の手を無視して、先端の残滓をきれいに舐めとり、再び全体を咥えこむ。
進はよくてもセナがこれでは終われないのだ。自分を穿つ槍を復活させるために、セナは必死に肉隗をしゃぶりつづけた。
セナの愛撫の甲斐があって、若い分身はみるみる大きさと硬度を取り戻していく。
これでようやく満足できる大きさになった・・・と口を離したとき、セナはようやく我に返った。
顔を上げた先には進が――今の今まで夢中で進のアレを舐めしゃぶっていた自分の顔を、進にずっと見られていた。
進は無言のまま、口元にわずかな笑みを浮かべて、優しい目でセナを見つめている。

「あ・・・」

セナの顔が羞恥で真っ赤に染まる。

「どうした、続けないのか?」

進の言葉の調子に揶揄はなかったが、セナはいたたまれなかった。

「お前のしたいようにすればいい」

進はそういうが、セナが今したいことは、進にされたいことだ。だが進は動いてくれない。
セナは首をふりながらぽろぽろと涙をこぼした。

「進さんが・・・欲しいです・・・っ」

進の上に馬乗りになったまま、ぱたぱたと涙をこぼすセナの頭をひと撫ですると、進はセナの細い指を手に取り、己の唇へと導いた。
しばらくその指に舌を絡めて濡らしたあと、その細指に自分の手を添えて、セナの後孔へと触れさせた。

「あ・・・ッ」

進の手に操られているとはいえ、自分の指が、今までふれたことがない秘部をさわっている。
指はひくついている入り口の回りをしばらく撫で回した後で、ゆっくりと中へと挿れられた。

「あ・・・あ、んっ・・・」

自分の指なのに、内部は歓んで締め付けてくる。進の手が導くまま、そのまま指を抜き差しすると、背筋に電流が走るような快感が伝わった。
もっと刺激が欲しくて、やがて進の手が離れても、セナの指は自分のイイところをこすりたてる。

「あっ・・・あっ・・・」

進の目の前で自慰をしているような状況に、セナは羞恥で消え入りそうになりながらも、心の奥底で別の興奮を覚えていた。

(進さんにこんないやらしい僕をみられている・・・)

そして指では物足りなくなると、セナは屹立した進自身をほぐれた蕾にあてがい、自分の中に少しずつ埋めていった。
進にしてもらうよりはるかに時間がかかったが、全て埋まったときにはやっと欲しいものが得られたという充足感でいっぱいになった。

「進さん・・・」

どう動いていいのかわからず、すがるような目をむけるセナの腰を、進の手がつかんで誘導する。教えられるままに、屹立したセナ自身を進の腹にすりつけるように動くと、セナの中の進自身もまた大きさを増して脈打ち始めた。

「あっ・・あっ・・・あっ・・あっ・・・」

リズミカルに腰を動かすセナの顎から進の胸へと汗が滴り落ちる。いつも以上に奔放に腰を振るセナの狂態を、進は目を細めてみていた。そしてそれまで自ら動かさなかった腰を、セナの動きに合わせて動かし始める。

「あんっ、あんっ、あんっ」

進も動いたことでより接合が深くなり、セナの嬌声もひときわ高くなった。律動は次第に速くなり、そして、

「ア、ンッ――」
「・・・・ッ」

二人は同時に欲望の証を吐き出したのだった。

 

 

嵐のような熱情が去った後、放心状態のままシャワーで洗われ、ベッドに運ばれたセナは、そのまま布団をかぶって進に背を向けてしまった。

「・・・・もー来年のハロウィンは絶対、ここには来ません」
「よくなかったのか?」

何故そんなことを言うのかわからんという様子の進をぽかぽか殴りたい気分だったが、今は力が抜けて指一本動かせない。
答えないセナに、進はかまわず話を続けた。

「それは無理な話だと思うが」

え?

「来年はお前もここに住んでいるだろう?」

布団の中でセナは目を丸くし――力が入らない身体をなんとか首だけ動かして、ベッドの端に腰掛けている進を見上げた。
隣のリビングからのみ明かりが射しこむ暗闇の中、進の目はずっとセナへと注がれていた。セナが大好きな、真摯な深い色の瞳で。

「高校を卒業したら、一緒に暮らして欲しい」

そりゃあ、進さんがここに住み始めたときから、なんとなくそれは考えていたけれど。
このベッドだってダブルベッドだし、合鍵ももらっているけれど。
だけど、それを今こんな状況で言うなんて。

なんて反則。

・・・などと、心の中で文句を言いながらも、セナは力の入らない身体でなんとかもぞもぞと向きをかえて。
それでも赤く染まった顔を半ば布団に埋めながら、いいですよ、とくぐもった声で答えたのだった。

 

おわり

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