ハロウィン

 

 

「『トリック・オア・トリート』というのは、日本語で言えば『菓子をくれないならばイタズラをするぞ』という、ハロウィンの日に近所の家をたずねて言う、子供たちの決まり文句だ。菓子を与える家には何もせず、何も与えない家にはイタズラをしていいという風習だ」

はあ、とセナは目をまるくする。こういうイベントに無関心だとばかりおもっていた進が、ハロウィンについて解説しているのはなんだか不思議な感じだ。

「お前はトリートを選んだ。つまり俺に菓子を与えてほしいと望んだことになる」

ああそうか、とセナは首をめぐらせ、テーブルの上のクッキーの食べかすとココアを見て、心持ちほっとした。とりあえずここに来た目的は、知らないうちに達成できたわけだ。

「クッキー、ごちそうさまでした。それじゃあ僕、帰りま――」

こんどこそ進の膝から降りようとしたのだが、先程からセナの腕をとらえていた手は緩まなかった。

「進さん?」
「トリートというのは「もてなす」という意味だ。子供ではないお前に、菓子だけ与えて帰すわけにはいかないだろう」

ええ!?と思うまもなく軽々と抱き上げられ――いつの間にかセナは、隣の寝室のダブルベッドの上で進に組み敷かれていた。
むさぼるようにくちづけながら、さっそくシャツのボタンを外しにかかる手際のよさに、セナは焦った。

「あああのっ、僕、お菓子で十分ですからっ」
「遠慮するな。存分にもてなしてやる」

 

 

「アッ・・・アン・・・そこっ・・・やめ・・・」

裸に向かれてから一時間。進の愛撫はいつになく執拗だった。
セナのイイところだけをたっぷり時間をかけて責め続け、そのたびに屹立して涙をこぼす分身を幾度となく口で愛撫し、欲望を吐き出させた。
セナの身体を知り尽くした甘い責め苦に、セナはぽろぽろと涙をこぼし、嬌声を上げながらも、もうやめてと哀願する。

「やめていいのか。ここはまだ物足りないようだが」
「あ・・・やぁっ」

獣のポーズをとらせて突き出させた小ぶりな尻たぶを両手でつかみ、露になった秘所を舌でつつくと、セナはまた鳴き声を上げた。
制止の声とは裏腹に、つつかれた入り口は期待でひくついている。
愛撫に素直に反応する身体。最初は頑なに進を拒んでいた。セナの身体を「愛されるための身体」に変えたのはこの自分だ。
わきあがる愛しさに進は目を細め、愛撫を待っている蕾の奥へと、より深く舌を差し入れる。

「やんっ・・・やだっ・・・そんなとこ、きたない・・・」
「お前に汚いところなどどこにもない」

進は聞き入れようとしない。セナは恥ずかしがって決して言わないが、ここを舌で愛撫されるのが実は好きなことを、進は知っている。唇で入り口をはさんで吸うようにしてやると、セナは泣きながら感じ入った声を上げた。いつも以上に時間をかけてそこを舐めてやり、セナの涙も枯れる頃、ようやく無骨な指が中に入った。

「あん・・・ああんっ・・・進さ・・・」

もういいから、と涙の痕が残る顔が哀願する。

「もう・・・ほし・・・」
「指なら挿れているが?」

内部をかき回す指がぐりぐりとセナのポイントを押し、セナは甘い悲鳴をあげる。

「やっ・・・いじわる」
「ちゃんと言わないとわからん」

時折の、こうした羞恥をあおる行為が、決して嫌いではないことも進は知っている。
その証拠に、指を咥えこんだセナの内部が、きゅうっと締まった。

し・・・しんさんの・・・お●ん●ん・・・」

これ以上ない真っ赤な顔をして、消え入りそうな声で口にした言葉を聞き取ると、進は指を引き抜き、己の怒張を熟れた蕾に突き立てた。

「あ――あああんっ!」

指とはまるで違う太さ、待ち望んでいた熱く脈打つ肉棒を身体いっぱいに感じて、セナはようやく与えられた充足感に甘いため息をついた。
だがそれもつかの間、

「アッ・・・アッ、アッ、アンッ、アンッ!」

大きな両手がセナの細腰をつかみ、嵐のような律動がセナをゆさぶった。
肉を打ち付ける乾いた音と、結合部から聞こえる濡れた音、入り口からはどちらのものともわからない愛液が滴り落ち、擦れあっている場所から新たな熱が生まれる。

「アンッ、アンッ、アンッ、アンッ」

進に揺さぶられて、セナはただ喘ぐことしかできない。進と繋がりあっている快感以外、もう何も考えられなくなる。
進の胸からセナの背中へ、汗がポタポタと滴り落ちる。腰をつかむ手に力を込め、律動を速くした進はぎりりと奥歯をかみ締める。

「ア、アア――ッ」
「く・・・・ッ」

二人は同時に欲望の証を吐き出したのだった。

 

 

嵐のような熱情が去った後、放心状態のままシャワーで洗われ、再びベッドに運ばれたセナは、そのまま布団をかぶって進に背を向けてしまった。

「・・・・もー来年のハロウィンは絶対、ここには来ません」
「よくなかったのか?」

いけしゃあしゃあとたずねる進の胸をぽかぽか殴りたい気分は山々だったが、あいにく今は力が抜けて指一本動かせない。
ぷんとむくれるセナに、進はかまわず声をかけた。

「それは無理な話だと思うが」

え?

「来年はお前もここに住んでいるだろう?」

布団の中でセナは目を丸くし――力が入らない身体をなんとか首だけ動かして、ベッドの端に腰掛けている進を見上げた。
隣のリビングからのみ明かりが射しこむ暗闇の中、進の目はずっとセナだけを見つめていた。セナが大好きな、真摯な深い色の瞳で。

「高校を卒業したら、一緒に暮らして欲しい」

そりゃあ、進さんがここに住み始めたときから、なんとなくそれは考えていたけれど。
このベッドだってダブルベッドだし、合鍵ももらっているけれど。
だけど、それを今こんな状況で言うなんて。

なんて反則。

・・・などと、心の中で文句を言いながらも、セナは力の入らない身体でなんとかもぞもぞと向きをかえて。
それでも赤く染まった顔を半ば布団に埋めながら、いいですよ、とくぐもった声で答えたのだった。

 

おわり

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