ハロウィン

 

 

「あのう・・・やっぱり帰ります」

どちらを選んでも、絶対何かある。とすれば、ここは帰ったほうがよさそうだ。
セナは、進を刺激しないようにそ〜っと膝からおり、完全に身体が離れたところで超高速で玄関にダッシュした。
そのまま一気にドアに突進しかけたところ、背後から恐怖の槍が伸びてきた。

「逃がさん!」
「うぐっ・・・!」

ドスン!というかなり大きな音と共に、セナは床の上に引き倒された。
容赦のないタックルをくらったせいで、一瞬、天地の感覚がわからなくなり、そうやって目をまわしているうちに、セナはあっという間に床の上で組み敷かれていた。

「俺がお前をこのまま帰すとおもうか」

セナにのしかかり、両手首をがっしりと押さえつける進の表情からは、いつもの冷徹な仮面は剥がれ落ち、セナを見つめる漆黒の瞳の奥には昏い欲望と熱をたぎらせていた。

(そういえば最近、進さんの試合やら僕の模試やらで、エッチしていなかったっけ・・・。)

自分がまさに飢えたオオカミの巣に飛び込んだことに今さらながら気づいたが、時すでに遅し、だった。

 

 

むさぼられている、まさにそんな感じだった。
首筋に、喉元に、鎖骨のくぼみに、唇を落とされるたびにちくりとした痛みが走る。首筋に歯を立てられ、乳首は噛まれた上できつく吸い上げられた。
いつもの気遣うような優しい抱き方とはまるで違う。まるで違う人に抱かれているみたいだ。
痛い、乱暴な愛撫に、それでも恐怖や嫌悪を抱かないのは、我を忘れたような行為に、寂しかったんだと訴える進の心を感じるからだ。
普段だって、いつも一緒にいられるわけではない。早朝のランニングは一緒にしているけれど、そんなささやかな触れあいだけではとても足りなくて。
寂しかったのは進だけではない。お互い忙しいからしょうがないんだって自分に言い聞かせていたけれど、本当はこうして触れ合いたかった。
建前で固めていたセナの心を、進の本音が強引に剥いて、暴いていく。

「あぅっ・・・」

分身を強く握られて、セナは痛みと恐怖に涙をにじませた。だが今にも握りつぶされそうなそれは、進の手の中で震えながらも熱く脈打ち、大きくなった。強い力で扱かれる。すすり泣くあえぎ声はどこか甘さを含んでいた。

「あっ・・・あっ・・・いた・・・・っ・・・アアアッ・・・!」

強引に扱かれて達してしまったセナの息も整わないうちに、進はその身体を返し、色白の尻をつきださせる格好で這い蹲らせた。
節の太い中指をぐりっと中に押し入れる。無意識に逃げを打とうとする腰を、容赦のない腕がぐいと引き戻し、より奥まで中をかきまわした。もどかしそうに指を引き抜き、ろくにほぐれも潤いもしていない秘部に己の怒張をあてがった。

「あっ・・・待っ・・・・アアア――ッ」

記憶よりもはるかに大きな塊が、めりめりとセナの中に押し入ってくる。驚いて抵抗するセナの身体に力任せに押し入り、空虚だった内部を強引に満たしていくそれは、痛いほどに熱い。

「うっ・・・あんっ、あんっ、あんっ!」

身体を引き裂かれる痛みは熱い疼痛となり、何度となく擦られるうちに今までになかった興奮と快感がセナの頭をしびれさせた。
リビングの床の上、獣のように尻をつきだした格好で、普段とは別人のように余裕を失くした進に犯されている・・・そんないつもと違う何もかもが、セナの心の奥底にある昏い欲望を煽り立てた。

「・・いしてるっ・・・セナッ」
「っ・・・!」

耳元で荒い息と共に囁かれた瞬間、セナの内部が進自身をきつく締めあげた。進は一瞬息をつめ、それからますます激しく腰を打ち付ける。

「あんっ、あんっ、あんっ、アア――ッ!」

中に熱い欲望を吐き出されるのを感じながら、セナもまた床に熱い液を散らした。

 

 

嵐のような熱情が去った後。正気に返った進は、誤って飼い主の手を噛んでしまった大型犬のようにしょげ返った。
とりあえず動けないセナをシャワーで清め、リビングのソファにそうっと寝かせ、ずっと床につかせていた膝をマッサージしている。

「痛みはないか?」
「今は大丈夫です・・・」

我を失っていても、膝だけはズボンを脱がさないでいてくれた。
大きな暖かい手のひらが、セナの膝頭を優しく包む。
だがそれに視線を落としたままの進の表情は、世界中の罪を一身に背負った人のようだった。

「・・・・すまん」

いくら恋人だからといって、力づくで行為を強要するなど許されることではない。
うなだれる進をセナは手招きした。なんだと身を乗り出す進を、セナは抱きしめた。
なぐさめるようにぽんぽんと背中を叩く。

「・・・小早川。これでは立場が逆だ」
「いいんです。今度は優しくしてくださいね?」

寂しくて触れたい気持ちはセナも同じだったから。
・・・でも、乱暴にされて感じてしまったとか、痛いのもちょっと気持ちよかったとかいうのは、進さんには絶対秘密にしておこう・・・とセナはこっそり思ったのだった。

 

 

おわり

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