はじめての・・・

 

 

深い深い口づけを交わす。
唇を吸われ、舌を絡ませ、口の中全体をまさぐられる。
頼りない身体はゆるぎない腕で支えられ、厚い胸板の内に抱き込まれて、
服越しに伝わる体温と、自分と同じく速い鼓動を聞いて安心する。

キスにうっとりとしているうちに、いつのまにかベッドに横たえられていた。
首筋に口づけられながら、Tシャツの中に手が忍び込む。
大きな暖かい手のひらの感触を直に素肌に感じて、セナの身体はびくんと跳ねた。

「怖いか?」

首筋に顔を埋めていた進が身体を起こしてセナに問う。
自分を組み敷いている進の表情はセナには見えない。
進のことは大好きだ。抱きしめられるのも、キスを交わすのも大好き。
だけど、これからされるだろう未知の行為を考えると、いくら好きな相手とでも、
躊躇せずにはいられない。

わかっていたはずだ。恋人の部屋に行くということは、了承のしるし。
覚悟はきめてきた、はずなのに。

かすかに震えながら答えられずにいるセナを見て、進は少し苦しそうに眉を寄せ、
それから小さく息をつくと、

「すまん」

ひと言そういって、再びセナに覆いかぶさった。

 

 

セナがおびえているのは知っていた。
嫌ならしないと、なぜ言えなかったのか。
もっと自分は理性的な人間だと思っていた。
セナの心の準備ができるまで、待てると思っていたのに。

震える小さな身体を前にしても、自分が抑えられない。
むしろ奇妙な高揚感が胸の奥底からわきあがる。
細い手足。細い首筋。
だが春に比べて、ずいぶんアスリートらしい身体になった。
進は今、フィールドで彼を組み敷いた時と同じ興奮を覚えていた。
自分に挑んできた、小さな身体。
この身体を、今から自分が抱くのだと。

 

 

「あっ・・・」

Tシャツの下から手を差し入れ、腹から胸へと手を滑らせると、セナが身をよじらせた。
胸の頂にある突起に触れると、今まで聞いたことのない艶めいた声をあげた。
セナ自身も自分が漏らした声に驚いたらしく、真っ赤になって口を押さえる。
もっと彼の声がききたくて、突起を指の腹で転がすように弄ぶ。

「ふ・・・ぅ・・・ん」

口を押さえる手をどかし、Tシャツを脱がせた。
熱で潤んだ大きめな瞳が訴えるように進を見る。

「進さん・・・進さんも、脱いで・・・」
「ああ」

自らもTシャツを脱ぎ捨てると、あらわになった滑らかな肌に唇を這わせた。
首筋、鎖骨、そして胸の突起を口に含みながら、セナのズボンに手をかける。
下着ごと難なく脱がせると、上半身への愛撫ですでに熱を持っていた分身を掌の中に包み込んだ。

「あんっ」

びくりと細い腰が跳ねる。自然と開いた脚の間に身体を割り込ませ、びくびくと脈打つ肉塊をしごき始めた。初めて他人によって与えられる感触に、セナはすすり泣くような、か細い声をあげている。胸からわき腹、臍、足の付け根へと下りていった唇は、そうしたいという欲望のままに、それまで手の内に握りこんでいたそれを、口の中に含んだ。

「やっ・・・進さ・・」

焦ったセナが進の頭を離そうとするが、二本のがっしりとした腕が、細い両脚を抱えるように腰に回されていて、びくともしない。口で与えられる愛撫は刺激が強すぎて、あまりの気持ちよさに頭が真っ白になってしまう。

「あっ・・・あっ・・・ダメ・・・でちゃう・・・っ」

焦って身をよじるが、進は離れない。セナはビクビクと身体を震わせると、とうとう精を吐き出してしまった。
呆然と荒い呼吸を繰り返すセナの目の前で、進はごくりとそれを嚥下し、ベッドの引き出しから小さなボトルを取り出す。
ほてった体の最奥に、不意にひやりとした感触がして、セナは身をすくませた。

「冷たいだろうが、少しだけがまんしてくれ」

そういいながら液体を塗りこめているのは、まだ固く閉ざされている狭い入り口。進の太い指先が入っただけで、セナは身を固くして、進の肩口にしがみついた。進は慎重に、オイルのついた指をセナの中へ埋めていく。

「あ・・・あ・・・っ」

オイルのせいで痛みはないが、どうしようもない異物感がセナを襲った。
だがそれだけではない。慎重に、だけど少しずつ内部をまさぐる進の指に、ぞくぞくとした、未知の感覚が背筋を這い登る。
それが快感だと気づいたのは、無骨な指がある一点に触れた時だった。

「ああんッ」

再びセナの身体が跳ねた。何かにきづいた進がそこを集中的に擦ると、すすり泣くような声をあげながら、進の背中にしがみつく。さっき精を出したばかりの分身はふたたび勃ちあがって欲望を滲ませ、それまで進を拒んでいた内部は、やわらかく溶け出した。
無意識だろうが、指を誘いこむように腰が揺れている。眩暈がするような媚態だった。

進は指を引き抜くと、細い両足をすくいあげ、すでに固く勃ちあがっていた己の分身を入り口にあてがった。

「あ・・・あ・・・ああ・・・っ」

指とは比べ物にならない質量が進入してきて、セナは腰をひきそうになるが、進の腕がそれをゆるさない。
圧迫感と苦しさを与えるそれは、ゆっくりと、しかし確実にセナの奥に埋め込まれようとしていた。
セナの額に脂汗がにじむ。必死に背中にしがみついた手も汗ですべりそうになる。
長い苦しい時間の末、進がようやく息をついた。
深く繋がった部分が、脈打っているのを感じる。

「・・・動いていいか?」

精悍な顔に汗を滲ませ、少し苦しげな表情の進が問うと、セナは熱で潤んだ目で小さくうなずく。
進はゆっくりと動き始めた。しかし動きは次第に大きく、速いものになっていく。

「あっ、あっ、あっ、あっ・・・」

自分の中で暴れる分身に、セナは翻弄されていく。
意識が飛びそうになる中、すがれるものは、自分をうがっている目の前の人だけだった。

「しんさん・・・進さん・・・っ」
「セナ・・・ッ」

荒い吐息がからみあう。腰の動きが一際速まった時、2人は同時に達した。

 

全力疾走したときと同じ、荒い呼吸が収まるまで、ふたりは抱き合ったままキスを交わしていたが、
進はおもむろに起き上がると、ぐったりしたセナを横抱きに抱えて立ち上がった。

「ちょ、進さん?」
「身体を洗う」

服も身につけず、軽々とセナを抱えてバスルームに向かう。

「そ・・・んなの、後で自分で」
「中に出してしまった。自分では洗えないだろう?」

そのままにしておくと、体調を崩すと聞いた、と少々申し訳なさそうに言う進に、
どこでそんなことを聞いてきたんだろう、といぶかしくおもいながらも、自分の身体をきづかってくれるのがうれしくて。
なすがままに身体を洗われた後、ふたたび抱き上げられてベッドに戻った。

シーツには毎日ここで眠る進の匂いが染み付いている。
労わるように優しく髪を撫でられながら、幸福な匂いに包まれて、セナはうとうとと眠りについた。

 

おわり

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