二回目の・・・
5
暖かい雨の水音。立ち上る湯気。見慣れない広い浴室。
動くたびに組み敷いている彼の唇から漏れる、甘い、甘い声。
日常から切り離されたこの一室で、何もかもが現実離れしていた。
床に敷いたマットの上で彼を突き上げながら、
濡れて額に張り付いた前髪を無骨な指でかき上げてやれば、
セナは同様に髪や肩から雫を滴らせている進を見上げて、頬を赤く染めた。
どうした、と指を頬に滑らせると、セナは恥ずかしそうに目をそらす。
律動を中断して、物欲しげにひくひくと蠢いていた内部がきゅうっと進を締め付けた。
無意識の媚態に、声を殺して堪えると、進は張り詰めたものを勢いよく引き抜き、セナを四つんばいにさせて後ろから突きたてた。
「ああんッ」
いささか乱暴な行為に、感じ入った声を上げるセナの表情には、もはや苦痛の色はない。
その細腰を引き寄せて、容赦なく秘部を攻め立てながら、進は自分の下で乱れるセナの艶めいた表情や、細い肩や腕、なめらかな腰のラインをあますところなく眺めた。
初めて抱いたときと比べて、彼の身体は変化した。
体型の変化ではなく、端的に言えば、硬さが取れた、というところだろうか。
彼の表情、何気ない動き、身体の線に、今までなかったやわらかさ、あるいはほのかな色香を感じる。
最初のうちは、セナの身体は心とは裏腹に、頑なに進を拒んでいた。
進を気遣って、指とはいえ、身体を割り広げられる苦痛と異物感に耐え、必死に拒絶の言葉を飲み込んでいたことを進は知っている。
だが時間をかけて開いた身体は、いつのまにか進の愛撫を受け入れるようになった。
短い逢瀬の度に進が教え込んだ快楽の場所を、セナの身体が覚えた。
セナの身体は、ようやく進に慣れたのだ。
おそらくセナ自身も気がついていないであろう、彼の変化を目の当たりにして、進は言葉で言い表すことのできない幸福感に満たされた。
心も身体も、自分を受け入れてくれたセナが愛おしい。
これほど誰かを想ったことなど一度もなかった。
これほど誰かに執着したことなど一度もなかった。
もし、今、彼を失えば。
自分はきっと気が狂う。
再び引き抜いて立たせると、今度は向かい合わせに立たせて片脚を抱え上げ、熟れた唇に口接けながら挿入した。
「あ・・・ああッ・・・」
不安定に揺れる腰をもう片方の腕でしっかり支え、下から思う様突き上げる。
セナの甘い悲鳴が、結合部がたてる淫らな水音が、そしてどちらのものともつかない、獣のような荒い呼吸が、湯気に煙る室内に反響する。
灼けるように熱い内部は、限界を告げるように進の肉棒を締め付けてきた。
「し、んさん・・・ッ」
「セ、ナ・・・ッ」
名前を呼んだ瞬間、セナの内部はきゅうっと締まって。
進は自分の欲望を、彼の中に注ぎ込んだのだった。
ぐー・・・。
何とも可愛らしい音に振り向くと、セナはベッドにうつぶせに横たわったまま、顔を赤く染めた。
「すみません。でも・・・お腹すきました」
ベッド脇に置いた腕時計をみると、もう昼を過ぎている。
朝食も食べていないのだから、空腹を感じるはずである。
「食事をとらねばな。その後、お前を家まで送っていこう」
先刻まで夢中になって行為に及んでいた身体である。
この上学校に行く体力が残っているとは考えられなかったのだが。
「いえ、いつもの待ち合わせ場所まででいいです。
家には帰りますけど、着替えて学校にいきますから」
さっきとはまるで違う、しっかりした口調で、セナはそういった。
「しかし」
「平気です。進さんも部活にでるんでしょう?これ以上差をつけられたくありませんから」
困惑する進に、セナは微笑みかけた。
激しい情事の痕を色濃く残す、嫣然とした笑み。
おそらく自分が色香を出していることなど、微塵も自覚していないに違いない。
「・・・承諾できんな」
「えっ?」
このような色をまとった状態で、彼を無防備に他人の目にさらすなど。
芽生えた独占欲に存外に心が狭くなっている、自分の心の変化を進清十郎が自覚するのは、もう少し先のことになる。
おわり
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