花影その後
長い口づけは、そこが枝垂桜の木の上であることを忘れさせた。 甘い吐息と唇を貪っているうちにそれだけではすまなくなり、 高まる気持ちのままに、長着の上から身体に触れていると、 リクオがふいに口づけを解いた。 「部屋で飲むか?今日は泊まってくだろ…?」 熱を湛えた目でしっとりと見上げられ、鴆の胸の鼓動がまた跳ね上がる。 愛しい恋人のお誘いに、抗うことなどできるはずもなかった。
「ん…」 宴の騒ぎを遠くに聞きながら、月明かりだけが照らす部屋で睦みあう。 リクオの部屋だと誰かが誘いに来るかもしれないので、まっすぐに向かったのは鴆にあてがわれた客間だ。 すぐに休めるように用意されていた布団の上にリクオを横たえる。 月の光に照らされる白い肌と、赤い襦袢はこの上なく男の欲をそそった。 裾を割って吸い付くような肌に触れ、浮き出た鎖骨に歯を立てた。 「あっ…ん」 腰紐を解き、胸元をくつろげる。 細身ながら、鍛え抜かれた硬い身体。 鴆が憧れてやまないその身体は、掌を滑らせると敏感に反応を返した。 唇で吸い付けばびくりと身体を震わせ、白く輝く肌には薄紅色の痕が残った。 みずみずしい肌とその下の硬い筋肉、あるいは浮き出た骨の感触を確かめるように撫でまわし、 リクオが感じる部分を唇で吸った。 「あっ、ぁあんっ…!」 乳首を吸いつつ歯を立て、先端を滲ませている分身を握って扱いてやると、 先走りはあっという間に茎から根元までを濡らし、脈打ちながら大きさを増した。 切なげな声を上げている恍惚とした顔を見ていると、鴆の胸の中は愛おしい気持ちでいっぱいになる。 愛撫に力を込めると、リクオは全身を震わせ、かすかな悲鳴を上げて達した。 その瞬間の、無防備で色っぽい表情も、鴆だけが知るものだ。 愛しさと誇らしさで満たされつつ、鴆は力が抜けたリクオの後孔に薬液をつけた指を這わせた。 冷たさにびくりとする入り口をなだめるように、円を描いた後で、 熱を孕んだ内部へそろりと指を潜り込ませる。 「あっ…ぜ、ん…」 形のよい指が、鴆の腕を掴む。落ち着かなげに腰を揺らしているものの、 腕を掴んだのは拒むためではないようだ。 「あっ…あんっ…」 熱い内部をゆっくりと探ると、内壁は指を歓迎するように締め付ける。 この清楚な身体の内部にこれほど淫らな熱を持ち、鴆を求めているのだと思うと、 自然と身体が熱くなった。 指を引き抜き、優美な形の割には硬くて重い、白い脚を抱え上げた。 物欲しげにひくつく蕾に、己の昂ぶりを突き入れる。 「あっ!あぁんっ…!」 その瞬間、脚の筋肉が張りつめるが、鴆を奥まで受け入れようと、すぐに力が抜けた。 どろどろに熔かされるような熱の中を進んでいく。脈打つ己を、脈打つ粘膜に擦りつけるように抜き差しした。 擦れあう度に、電流のような快感が背筋を駆け上る。 それはリクオも同じらしく、抽挿の度に背筋を震わせた。 もっとも感じる部分が溶け合い、脈動がひとつになる。 擦れあう部分が熱くて、もはやどこまでがリクオでどこまでが己かもわからなかった。 憑かれたように腰を動かしながらリクオを見れば、彼も白い顔をほんのり上気させて、 うっとりとした顔で鴆を見上げていて。 その表情に、自分たちは今ひとつになっていると実感した。 鴆は額に張り付いたリクオの前髪をかきあげた。 床に流れる、絹のような髪を撫でながら、その白い額に唇を落とした。 |
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