暮の春(クレノハル)
「あっ…鴆…ッ」 行燈がぼうっと照らす夜闇の中、衣擦れの音と秘めやかな水音に混じって、甘い吐息と掠れた声が室内を熱く満たす。 寒くもなく暑くもなく、梅雨に入る前の涼やかな夜。 しわひとつなく整えられていた敷布を乱し、しなやかな身体をよじらせて愛撫に応える恋人の動きも、 こんな夜はいつもより大胆で艶めかしい。 鴆がそう望んだから、着物を脱がせるのは鴆の役目だが、 肌を晒しても身体をこわばらせることなく、素肌に触れる手に震えることもない。 白い脚の間に手を差し入れれば、素直に脚を開いて鴆を迎え入れる。 もっとも、手ではなく頭を埋めようとすれば、未だに恥ずかしがって暴れられるのだが。 初めて結ばれてからすでに何年も経った。 手順を踏めば痛がることもなく、何も知らなかった身体は、ずいぶん鴆との行為に慣れて、 時折心配になるほど、危うい艶めかしさを帯びてきたけれど、それでも時折見せる初々しさは初めての頃と変わらない。 何度抱いても足りないと思う、もどかしいほどの愛しさもまた。 「あっ…ああっ…!」 いや、抱くほどにひどくなっているかもしれない。 こんなことはリクオのためにならないとわかっていながら、 一度彼の熱を知ってしまったら、もうやめることなど考えられなくなっている。 手におえない執着と独占欲と、どう言い訳しても消えない罪悪感で、胸が苦しい。 「あっ…あんっ…ぜん…」 だが、雄を受け入れ、突き上げられながら、涙と熱を湛えて鴆を見上げてくる、その金色の瞳を見つめていると、 やはり離れることなど考えられなくて。 この春がいつまでも続けばいいと、願わずにはいられなかった。
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