おいで…
満月を過ぎた月が、華美ではないが、よく手入れされた趣味のよい庭を照らす、凍りつくような冬の夜。 リクオはいつものように鴆の部屋を訪れ、酒を酌み交わしていた。 リクオのために置かれたファンヒーターがついているせいで、部屋は暖かい。 忙しない年の暮れ、日中の薬鴆堂の混みようや、新しく奴良組に加わった連中のことなどを、 互いにとりとめもなく話しながら、温められた酒を飲む。 喉を通った酒が身体を内側から温め、酔いがほんのりと頬を包み込む頃になると、 盃を持っていない方の左手に、乾いた大きな手が重ねられ、指を絡められる。 手の主を見れば、行燈に照らされた緑の目がじっとリクオを見つめていて、 絡め取った手をそっと引かれる。 「リクオ」 それがいつもの、はじまりの合図だった。
「んっ…」 閨に誘われ、互いの着物を脱がしあう。 敷布の上に素肌を横たえられればその冷たさに一瞬身体が強張るが、 すぐに覆いかぶさってくる熱い身体に、そんなことはすぐに忘れてしまう。 何も考えられなくなるくらい何度も深く口づけられて、大きな手のひらが貪欲に身体をまさぐって。 繊細な指が乳首を、性器を、尻やその奥の入り口を、何もかも知り尽くした力加減で弄って、 リクオを快楽の海に沈めていく。 そうして、それが欲しくてたまらない状態にしておいてから、鴆はリクオから手を離し、 仰向けに寝そべって言うのだ。 「リクオ、来いよ」 欲しければ自分から跨って動けなどと、ひどい男だとリクオは恨みがましい目で鴆を睨むが、 鴆は涼しい顔でリクオを待つばかりだ。 鴆を求める身体の奥の疼きに堪えかねて、リクオはのろのろと鴆に跨る。 熱く脈打ち、猛っている鴆の肉棒をつかみ、もう片方の手の指で自らの入り口を探った。 己を満たすために、硬い切っ先を受け入れる。 「あっ…ぁあんっ…!」 何度も身体を揺らしながら奥を貫く昂ぶりを飲み込み、腰を沈める。 根元まで飲み込んで鴆を見ると、熱を湛えた緑の目がこちらを見ていた。 自分も同じような目で鴆を見ているのだろうか、と思いながら、欲に急き立てられるように動き始める。 己の中にいる鴆自身から貪欲に快楽を引き出そうと、引き抜くときには無意識に締め付け、 埋める時には柔らかく飲み込む。猛って先走りを零している己の性器を鴆の腹に擦り付けるように、 腰は円を描いて鴆の痩せた身体の上を動く。 「あっ…あんっ…」 鴆が欲しくてたまらない、己の痴態を晒しながら、リクオは鴆をじっと見つめたまま、 憑かれたように腰を動かし続ける。 鴆の目が切なげに細められ、やがて大きな両手がリクオの腰骨を掴んだかと思えば、 下から激しく突き上げ始めた。 「あっ!あっ!あんっ!」 リクオがのけぞり、揺さぶられるままに鴆の腹の上で踊り、あられもない声を上げる。 繋がった部分からはひっきりなしに濡れた音が聞こえ、敏感な部分を擦り合う行為と共に快感を煽った。 「あっ、あんっ、あんっ、鴆っ…!」 「リクオ…ッ」 むき出しの欲望をさらけ出して、互いの名を呼びながら果てていく。 自分の中に鴆の熱い飛沫が広がるのを感じながら、リクオもまた、鴆の腹に己の精を吐き出した。
繋がったまま、くずおれるように毒の模様が刻まれた胸に倒れ込む。 細い割に力強い腕が、リクオの身体を包み込む。 リクオと同様に荒い息を吐き、心臓は狂ったように早鐘を打っていた。 互いの呼吸と心臓の音が少し収まってくると、鴆はリクオの頬に手をやり、口づけてきた。 「すげー気持ちよかった」 嬉しそうに感想を言う恋人に、リクオは頬を熱くして、馬鹿、と言って再び胸に顔を埋めた。
おわり
|
||