漆黒の闇の中
暗闇の中で手を伸ばす。 優美な眉、形のよい額、やや吊りあがった目、男らしく削げた頬、そして少し肉厚の唇。 野性味と繊細さが同居した輪郭が、今自分を組み敷いているのは鴆だと教えている。 なおも確かめるように触れていた手を、ふいに大きな手が掴んで止めた。 「もういいだろ」 今度はオレに触らせろよ、と低い声が囁き、首筋を吸われてビクリとする。 腰帯で目隠しをされた時には子供じみた真似を、と思っただけだったが、視界を奪われることでこんなに不安になるとは知らなかった。 暗闇で睦み合うのはいつものことだが、妖怪の時には夜目がきく。今まで暗闇を恐れたことなどなかった。 だが、今いるのは完全な闇。 しかも相手には自分の全てを見られている。 見えなくても感じる、鴆の気配。よくなじんだ気が、リクオの気と混ざり合っている。 だけど身体じゅうに唇を落とし、脇腹に手を這わせているのが本当に鴆なのか、知らない誰かではないのか、さっき確かめたばかりなのにまた不安になる。 身体ばかりがいつもより敏感になって、与えられる愛撫にいちいち反応してしまう。 「嫌だ…鴆…ッ」 こんなのは、嫌だ。 誰のものかわからぬ手で、もっとも敏感な部分を握りこまれた時、鳥肌が立った。 「何泣きべそかいてんだよ。オレに決まってんだろ」 暗闇の中、困ったように笑っているのは、確かに鴆だ。 泣いてなんかいない。 「はいはい、あんたにゃ、まだ早かったな…悪かったよ」 鴆はあやすように背中を撫で、銀の髪に唇を落した。
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