流れ出た深紅




リクオが出入りの後に薬鴆堂を訪れることはほとんどない。

出入りの後だと明け方近くになってしまうという理由もあるが、出入りのほとんどを、鴆に黙って行っているからという理由の方が大きい。

言えば連れて行けというに決まっている。
しょっちゅう血を吐いては倒れている鴆を連れていくわけにはいかないので、出入りの情報は鴆の耳に入れないように、細心の注意を払っている。

また、「祭り」が終わった後で、血の匂いや殺気をまとわりつかせたまま、のうのうと薬鴆堂を訪れるほどリクオは無神経ではなかった。





だが、その夜はちょっと油断して、腕を斬りつけられた。
血はすぐ止まったが、側近たちはすぐに鴆を呼ぶという。

この時間ならもう寝ているだろうし、ここに呼ぶくらいなら自分で行った方が早い、供もいらねえと、一人蛇ニョロに乗って薬鴆堂に降り立ったのだが。

――鴆という妖怪の本性を、リクオはどこか甘くみていたのかもしれない。





血と戦闘の匂いをまとわりつかせたリクオに、鴆は無言で襲いかかって来た。

「や…め…ッ」

有無を言わさぬ力で帯を解かれ、裸に剥かれて閨に転がされた。

怪我をしたことを怒っているのかと思ったが、それにしては様子がおかしい。

鴆は血が固まりかかった腕の傷口に舌を這わせた。

ピリリとした痛みが静電気のように伝わる。

傷口だけではなく、身体じゅうに舌を這わされ、骨ばった手で忙しなくまさぐられた。

「鴆っ…ちょっと、待っ…」

まるで獲物を貪り喰らうように、あちこちを噛まれ、吸いつかれ、揉みしだかれ、痛いほどの愛撫を加えられた。

潤滑剤も使わず、長い指で奥まった場所を遠慮なく探られたかと思えば、大して馴らしもしないうちに両脚を抱え上げられ、猛り立った欲望をねじ込まれた。

「ヒッ…」

激痛を予想して、リクオの身が竦む。

容量をはるかに超えた肉棒は、性急な挿入で、本来受け入れる場所ではない入口を、わずかに裂いた。

ピリリとした痛みよりも、摩擦による熱の方が苦しかった。

大きな熱の塊はリクオの身体を少しずつ、強引に割り開いていく。

「ア…アッ…!」

何とか全部、中におさまったかとおもえば、休む間もなく動きだされて、リクオは思わず鴆の腕にしがみつく。

潤いのない肉棒が内壁を擦りたて、いつも以上に堅く大きく感じる雄が生み出す摩擦熱で、内側が燃えるようだった。

痛みに似た熱は、乱暴に擦りたてられているうちに、抜き差しされる異物感と圧迫感と一緒になって、不快以外の感覚を生んだ。

ガクガクと、なすすべもなく揺さぶられながら、どうしてこんな、と必死に鴆を見上げれば、緑色に光る妖怪の目が、リクオをじっと見つめていた。

そこにはいつものような穏やかな理性や、愛情の色はない。

あるのは目の前の獲物を喰らおうという欲望と興奮だけ。

その眼の色に、リクオはぞくりとした。

恐怖だけではない。

己が目の前の猛禽に、組み敷かれたまま喰われるということに、倒錯めいた興奮を覚えた。

鴆が首筋に噛みつき、犬歯が白い肌に食い込む。

血と体液で滑りはじめた内部に熱い飛沫を出されて、リクオの身体は歓喜に震え、逐情した。





それから何度体位を変え、何度中に出されたか、途中で気を失ってしまったリクオは覚えていない。

気がつくと、腕にはちゃんと手当がされていて、枕元にはすまなそうな表情をした鴆が、正座して縮こまっていた。

「ただでさえ満月で血が騒いでるってのに、あんたが、うまそうな匂いをぷんぷんさせて現れるからよお…」

リクオが布団の中からむっつりと睨むと、鴆はだから悪かったって、と小声で言葉を継いだ。

おそらく、腕以外の見えない部分にも、薬が塗られていることだろう。

汗や精液でドロドロだった身体は清められ、清潔な浴衣を着せられている。

「…てめぇのこと、少しばかり誤解してたかもな」

かすれた声で呟けば、耳ざとく聞き取った鴆が、「ああ?どういう意味だよ?」と尋ねてくる。

短命で、病弱で、弱い妖怪とばかり思っていた。

しかし鴆もやはり妖怪。
妖怪らしく、野蛮で危険な本性も持っているのだと。

…そんなことを言えば、次の出入りに連れて行けと言うに決まっている。
それに何より、しゃくにさわるので。
野蛮で危険な鴆もちょっとよかったなんてことは、本人には言わないでおこうと密かに思うリクオであった。





おわり


旅行中に書いたものゆえ雑です(言い訳ですな)ううむ;;
いつかリベンジしたい流血お題。


裏越前屋