忍ぶ恋
しんしんと雪が降り積もる。 音がなくなった薬鴆堂に、木の枝から雪が落ちる以外の、かすかな物音を聞きつけて、鴆は居室の障子を開けた。 庭に面した縁側には、凍えるような空気と共に、赤い番傘から雪を落としている、年下の主の姿があった。 「何もこんな日に来るこたねえのによ」 今日はさすがに朧車を使って来たのだろうが、それでもふわりとたなびく銀の髪の先には雪がついている。 手拭いでぬぐってやりながらそう言うと、お前だってここだけ雨戸を開けていただろ、と小さく笑った。 確かに、リクオが来るかも知れないと思って、自分の部屋の前だけ閉めなかったのだが。 「前にもこんなことがあったからな」 ちょうどこんな雪の夜だった。彼は手作りの菓子を持参して来て。 鴆は氷のように冷たい、優美な手を取ると、両手で包み込み、その指先に息を吹きかけた。 「風呂入れよ…それとも一緒に入るか?」 唇が触れるほど近くに白い手を掲げ、リクオを見つめれば、彼は目元を赤く染めて、頷いた。
「あっ…ぁあんっ…!」 湯けむりが立ち上る岩風呂の中で、近くの岩にしがみついたリクオに後ろから挿入した。 浮き出た腰骨を両手でつかみ、欲望のおもむくままに突き入れる。 燃えるようなリクオの内部は、鴆の昂ぶりをきつく咥えこんで離すまいとする。 「は…リクオッ…」 己を求めるその締め付けに、我を忘れた。 互いの立場だとか己の寿命だとか、普段思い悩んでいるいろいろなことが、リクオと繋がればどうでもよくなった。 「あっ、あんっ、鴆ッ…」 もっと欲しい、と動きにあわせて腰を振るリクオの嬌態に、中にいる鴆は大きく脈打ち、ますます硬くなった。 足元と接合部分でたてる水音はますます激しくなり、鴆は呻き声と共に、リクオの中に欲望を注ぎ入れた。
「溶かして固めただけだけどな」 湯あたりするまで互いを確かめた後、二人は布団に寝そべりながら熱燗を飲んでいた。 風呂から上がって早々に布団に直行することになったのは、リクオが座れなくなったせいだ。 その原因を作った鴆はリクオに付き合い傍らに寝そべりながら、酌をしたり、リクオにもらったチョコレートを食べていた。 本当にうまいってほら、と、いびつなハート形のチョコレートを一口齧って口移しで食べさせれば、 甘いもの好きな主はまあまあだな、と満更でもない表情で口を動かし、猪口を傾けた。 酒にチョコレートなど、リクオにもらうようになるまでは試したこともなかった組み合わせだが、 他でもない彼からもらうのならば、酒と一緒に食べるのも悪くない、と鴆は思うのだった。 雪の中チョコを届ける話を書きかけて、表の「ばれんたいん」とまったく同じだったことに気が付きました; |
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