キリストが生まれた日

京香さま

 

 

星の綺麗な夜だった。

日中の暑さが嘘だったかのような、涼しい風が吹いている。

ドライブの途中で、偶然見つけた場所だった。海浜というにはこじんまりした所

で、夜ということもあってか訪れる人はいないようだった。

車を降りた直江と高耶は、誰もいない砂浜を歩いていた。

「波打ち際を歩いてみたい」

そうポツリと漏らした高耶に異論を唱えるわけもなく、直江は車を砂浜へと停め

たのだった。

さざなみが奏でる音が、耳に気持ちいい。

夜の海はどこか神秘的で、そしてとても美しかった。まぶしい陽光の下で見る海

と同じものだというのに、昼と夜とではなぜこんなに雰囲気が違うのだろうか。

蒼いはずの海が黒く見える。

波の寄せる音が、やけに大きく聞こえる。

暗闇に阻まれて、陸と海の境目も良く見えなければ、遥か彼方に水平線を望む事

も出来ない。だからだろうか。とても美しいのに、気を抜くと海の底に引き込ま

れてしまいそうな感じがして、少し、怖かった。

しばらくは何も話さず、海岸沿いを並んで歩いた。

今のこの瞬間が、なぜかとてもかけがいのないものに思えた。滅多にない事だか

らだろうか。この一瞬一瞬が怖いくらいに大切で、言葉を発したとたん魔法が解

けるかのように、この穏やかな一時が終わってしまいそうな気がして、直江は言

葉を紡ぐ事が出来なかった。

―――けれど、

横を歩いていた高耶が、ふいに立ち止まった。

僅かな潮の香りを纏いながら、高耶が空を見上げる。

「星が綺麗だな…」

高耶の言葉に同じく顔を上げた直江の目に、夏の星座が飛び込んできた。

「東京と違って良く見えますね」

沈黙が破られても、この大切な一時は終わらなかった。むしろ、先ほどよりも心

が安らいだ気がした。

「高耶さんは星座には詳しいんですか?」

優しい気持ちのまま問いかけると、高耶はいや、と小さく笑った。

「興味はあったんだけどな。覚えるのが面倒だった」

「確かに種類は多いですし、毎日少しずつ動いていますからね、覚えるのは大変

でしょう」

「そういうお前は……っと、前に少し話してくれた事があったよな。北十字星が

どうのこうのって」

「覚えてたんですね、高耶さん」

それはまだ、高耶と再会してから数える程の日にちしか過ぎていなかった時のこ

とだった。直江と高耶は、東京で今と同じように星を眺めた事があった。さすが

に北斗七星はおろか、北十字星とも呼ばれるはくちょう座すら良く見えなかった

のだが、それでも「夏の大三角」は見て取る事が出来た。

「そのぐらい覚えてるさ。あの時のお前、一人で勝手に納得してたよな。オレが

聞いても秘密です、の一点張りで。しかもその後、オレにキ―――」

「……?」

突然言葉を呑み込んだ高耶に、直江は不思議そうな顔を向けた。けれど、高耶の

つい口を滑らせてしまった、と言わんばかりの様子に微笑みを濃くする。

「あの時、私がなんですか?」

「う、うるさいっ」

「教えて下さい、高耶さん」

プイッと顔を逸らしてしまった高耶の肩に手をかけ、振り向かせると高耶はどこ

か怒ったような顔を見せた。

「しつこいぞ、お前」

「あなたが凄く気になるところで言葉を止めるのがいけないんです。何を言いか

けたの?」

「って、お前は教えてくれなかったくせに、オレだけ教えるのって不公平じゃね

ーか!」

「では、あなたが教えてくれたら私も教えてあげますよ」

それならいいでしょう? と微笑む直江に、苦虫を潰したような顔をした高耶は

だが最終的には折れたようだった。

「…ったく。しつこいと嫌われるんだからな」

と、高耶は釘を刺してから、仕方なく言葉を紡いだ。

「……後から思ったんだけどさ、あの時お前、オレにキス…しようとしただろっ

て思って」

「……」

キスどころかそれ以上の事もたくさんしている割には、高耶は顔を朱に染めた。

どうも言葉にする事に、照れを感じるらしい。いつまで経ってもウブな反応を返

す高耶が、可愛らしかった。

直江は、フッと笑うと、

「そんな事もありましたねぇ。あの時は美弥さんに邪魔されてしまいましたが―

――」

思わせぶりにちら、と高耶を盗み見ると、高耶が眦を上げたのがわかった。

「な、何だよ。美弥を邪魔者扱いすんなよっ。…それより、オレは話したんだか

らな! お前も内緒にしてた事話せ…よ…!?」

わめく唇に自分のそれを重ねると、突然のことに高耶は驚いたようだった。一瞬

目をパチクリとさせてから、ハッとしたように直江の体を押しやった。

「なお…、や、め」

「高耶さん、今ここで、あなたを愛してもいい?」

「!」

黒く澄んだ瞳を見つめながら言うと、高耶は予想した通り狼狽えた。次いで身構

えた様子に苦笑しながら顔を持ち上げると、高耶の顔がますます赤くなったのが

夜目にもわかった。

「なっ…」

「あなたがこの世に生を受けた、あの日も輝いていた、北十字星の真下であなた

を愛したい…」

「なお……!」

高耶からの拒絶の言葉は聞かなかった。高耶が言葉を紡ぐ前に、その唇を再び奪

った。

潮風に当たっていたせいか、高耶の唇は少しだけ潮の香りがした。歯列を割って

舌を差し込むと、抵抗するかと思われた高耶は、だが意外なほど素直に舌を絡ま

せてきた。

ハ……。

唇を離すと、高耶が荒い息のまま直江を見上げてきた。その瞳が甘く潤んでいる

のを見て、直江の喉が鳴った。

「高耶さん、いい……?」

腕の中で震えている高耶に囁くと、彼は微かに、……肯いた。

 

 

真夏とはいえ、陽が沈んでからかなり経つ海の水はやや冷たかった。だから二人

は、体温を分けあうかのようにピッタリと肌を重ねあった。そのせいか長い間水

の中にいるというのに、それほど寒さは感じなかった。互いに与え合う体の熱が

二人の体を優しく包んでいた。

直江の腕の中で、祝福の口付けを受けた高耶の背が大きく反り返った。そのまま

逃がさないように腰を引き寄せて、直江は自分の印を肌に刻み込んだ。

「高耶さん……」

闇夜に、鮮やかな紅花が浮かび上がる。

よろける体を支えて、高耶の中心を掌中に納めた。そして自分のものを掴んで、

高耶の同じものに擦りつけると、高耶が驚いたように顔を上げた。

「なお…っ。何す……!」

あまりの事に体を離そうとする高耶を抑えて、直江は先端同士を擦り合わせた。

「や、だ……っ、離せ、なおえっ」

握ってやっただけでも体を竦ませていた高耶は、常識を逸した直江の行動にます

ます感じてしまったらしかった。先端の切れ目を抉るように擦りつけてやると、

耐えられなくなったのか高耶が背に爪を立ててきた。

空いている手で体を押しやろうとする高耶に、直江は左手を滑らせて、奥まった

場所に指を1本挿し込んだ。

「ヒッ…! あぁ…ッ」

慎重に指を根元まで埋め込むと、高耶がブルリと体を震わせた。その動きのせい

で、擦りつけられていたものに刺激を与えてしまった高耶は、一人先に達してし

まった。

膝が萎えてくず折れかけた高耶は、直江の長い指を深く銜え込む事になった。通

常では入らない所に指先が当たってしまって、高耶は達した余韻に浸る間もなく

喉を大きく仰け反らせた。

「アァッ!」

「高耶さん…。ここ、イイの……? あなたのもの、もう勃ってる」

辿りついた場所を爪で擦ってやると、高耶が目に涙を浮かべながら喘ぎを漏らし

た。酷く感じているらしかった。自身で穿つのより、まだ細い指の方が細やかな

愛撫を施すことが出来る。直江はここぞとばかりにそこを突いて、高耶に甲高い

悲鳴を上げさせた。すると高耶は、自ら片足を直江の足に絡みつかせて、自分の

ものを擦りつけるように体を揺すり始めた。

「ンッ、ンン…ッ。あ、…イイ……ぁ…」

首に縋りついて無心に体を揺する高耶。そんな高耶は、直江の目には酷く淫らで

そしてとても美しく映った。

大きく反り返ったものが直江のそれと濃厚に絡みあって、二人はほどなく愛液を

互いの腹に撒き散らせた。脱力する体を必死に起こして、高耶をキツく抱きしめ

る。

「綺麗だ、高耶さん……。とても…美しい……」

二度達した高耶はもう体に力が入らないらしい。直江に全てを委ねながら、しか

しその瞳は先に進む事を促していた。

直江は指を引き抜くと、高耶の臀部を持ち上げてますます体を密着させた。そし

て怒張したものを高耶の恥穴にあてがうと、そこに尋常でない熱を感じた高耶

が切なげに目を細めた。

「なおぇ…、……や…く…」

それが合図だったかのように、直江は高耶の中に押し入った。不自然な恰好の上

に、太いものを飲み込まされた高耶は息も絶え絶えだったが、体の中に感じる熱

が嬉しいのか、直江の目の前で綺麗な笑顔を見せた。

「直江…。オレ……。凄く、しあわせ…だ」

「私も…、あなたと会えた奇跡に、心から、……感謝します」

高耶の腰を掴んで持ち上げると、浮力で軽くなった体は思いのほか簡単に持ち上

がった。浮いた分、失なった質量を埋めるように海水が内に入ってきて、それが

高耶の弱い粘膜を灼いて、高耶は痺れるような感覚を味わっていた。それに体を

震わせて耐えていると、そこにまた男のものが力強く入ってきて高耶は込み上げ

てくる快感と共に高い嬌声を上げた。

「なおえ、なおえぇ――…っ」

「く……ッ。高耶、さん……」

あふれる激情そのままに、二人は互いの体を貪りあった。そして北十字星が見守

る中、二人は長い口付けを交わしたのだった。

 

 

「直江…」

ウインダムの横に座り込んだ二人は、潮風に吹かれながら黒い海を見つめていた

高耶は全ての力を使い果たしてしまったらしく、足腰立たない状態だった。

直江に抱き上げられてここまでくる間、高耶は腕の中でじっと直江を見つめてい

た。

何を、考えているのだろう。

どこまでも澄んだ黒い瞳は怖いくらいに綺麗で、直江を落ち着かせなくした。

が、ふと顔を上げた高耶は天を差すと、

「あっ、流れ星!」

言われて慌てて空を仰いだ直江だったが、残念ながら見ることは叶わなかった。

すると高耶は「何だよ。おせーんだよ。折角教えてやったのに」とぶすくれなが

らも、恥ずかしそうに直江の胸に顔を埋めてきた。

「流れ星、…一緒に見たい…かも」

「……!」

その言葉に、直江の胸には去来するものがあった。

―――二人で見れたら、かけがいのない宝物ですね。

いつか直江が言ったその言葉を、高耶は覚えていたらしい。それに感動を覚えつ

つ、直江は高耶を砂浜にそっと下ろしたのだった。

「…何ですか」

直江が優しく先を促すと、高耶はううん、と首を横に振った。

「呼んだだけ」

生乾きの髪に指を差し込んで丁寧に梳いてやると、高耶が嬉しそうに目を細めた

その横顔に見とれていると、頬を赤らめた高耶が直江の肩に凭れかかってきた。

「直江。その…、サンキュ…な。今までの誕生日の中で、一番思い出に残るかも

照れながらもハッキリ告げる高耶。それに微笑みを返しながら、高耶の頬にキス

を一つ落とした。

「流れ星、見られるといいですね」

「あぁ! そしたらもっと思い出に残る誕生日になるな。―――あっ! でも、

さっきの話、そういえばまだ聞いてねーぞっ」

思いだしたように答えを求める高耶に、直江は曖昧に笑うと、

「話してあげますよ。流れ星を一緒に見ることが出来たなら」

「よし! その言葉忘れんなよッ」

「えぇ」

直江は力強く肯きながら思った。

(きっと、見ることが出来ますよ。あなたとなら…、一緒に)

そうしたら、どこから話そうか。

ふと思って横を見ると、こちらを見ていた高耶と目が合った。

言葉なんていらなかった。

見つめあって、互いに笑みを交わしあう。

直江を見上げた高耶の瞳に、星が一つ、流れた。

 

fin.

いただきもの部屋へ

 


京香さまとこのDiamond Ringさまで53(直江カウント…くっ)をゲットしてもぎとった小説です。やた〜っ♪
「7月生まれのシリウス」ねたです。あの時のキス未遂事件(笑)のことといい、
つぼつきまくりですね!しかも直江、いけしゃあしゃあと…。
そして今回結局カラダでごまかされてしまった高耶さん(^_^;)
でもBDを過ごすなら、らぶらぶがなにより♪
京香さま、素敵なBD小説、ありがとうございました〜♪