虎美(こび)
後編

by LUCIAさま

 

 

 

 二人が初めて出会ってから一年が経とうとしていた。
 一年目にあたる今日は奇しくも高耶の誕生日だった。だが妹と親友からお祝いの電話があった他は他の日と変わらない。高耶はバイトに向かう。

 あいつと会ってもう一年か――。

 出会いサイトに登録したのは出来心だった。会いたいとメールしてきた直江に返事 をしたのも。一つ歳をとり大人になったような気がして、火遊びをしてみたかった。 一度だけに終わるかと思ったその関係がこれほど続くとは、これっぽっちも思っていなかったのだ。それが今では、直江と会わない土曜日など想像もできないくらい直江 に縛られている。来年の今日、自分はまだ直江とつきあっているのだろうか。

 その時。
 見慣れた長身の男がホテルの前に横付けされた車から出てきた。助手席のドアを開 け、中から出てきた女性をエスコートする。立ちすくむ高耶と直江の目があった。

「高耶さん……」

 金縛りが解かれる。高耶は身を翻して駆け出した。後ろで直江が名前を呼ぶ声がす るが、怖くて振り返れない。

 訳がわからなかった。なぜ自分がこんなに動揺しているのか、高耶にはわからなかった。惨めな自分に涙が出そうで、夢中で駆けた。

 だから気がつくのが遅れた。

 横を向くと視界いっぱいに赤い車が映った。鋭いクラクション。地面が回る。悲鳴 のようなブレーキ音。誰かの叫び声。
 大丈夫ですか、という呼びかけに正気に戻った。体を起こすと周りに人だかりがで きていた。脚の隙間の向こうに見えた血だらけの塊。

「直江……?」

 その呼びかけに返事はなかった。




「高耶さん?聞いてますか?」
 はっと我に返って、高耶は答えた。
「ごめん。何だって……?」
「顔色が悪いですよ。気分が良くないんですか?」
 心配そうにのぞき込んでくる直江に、頭を振った。
「いや、それより何て言ったんだ?」
「いえ、私たちがつきあい始めて明日で一周年なので食事に行きませんか、という話ですが」
「会ったのは二年前だぞ」
「ちゃんとつきあい始めたのは一年前からでしょう?高耶さんの誕生日でもあります し、ちょっと張り込んでお祝いしませんか」
 あなたの試験さえなければ旅行に行きたいくらいです、と楽しそうに言う直江を見 て、高耶は心の中で安堵のため息をつく。

 高耶をかばった直江の怪我は幸いなことにひどくなかった。しかし入院を余儀なくされ、高耶は看病に毎日通う羽目になった。それから一年。二人でいる時間は心地よ いものへと変わっていた。この関係がずっと続いていって欲しい。

 何年経ってもおまえと一緒にいたい――。

 つぶやく高耶を抱き寄せ、直江は心からの笑みを浮かべた。




 そう、明日は記念日。この美しい虎を手に入れた――。



 


<終わり>

いただきもの部屋


<LUCIAさまコメント>
エロを書くつもりが、エロになってない〜!もっと精進せねば(何を?)。 恭子様、貰ってくれてありがとうございました。

<恭子こめんと>
いやいや十二分にえろです(笑)こちらこそすてきなお話をありがとうございました!
はーよかったー、これぞ災い転じて福となすですね。それにしても直江、あんた高耶さんのBDに高耶さんほっぽって女といるなんてきぃー(>_<)
でも1年かけてようやくの両想い。高耶さんが幸せなら♪