虎美(こび)
後編 by LUCIAさま |
二人が初めて出会ってから一年が経とうとしていた。 あいつと会ってもう一年か――。 出会いサイトに登録したのは出来心だった。会いたいとメールしてきた直江に返事 をしたのも。一つ歳をとり大人になったような気がして、火遊びをしてみたかった。 一度だけに終わるかと思ったその関係がこれほど続くとは、これっぽっちも思っていなかったのだ。それが今では、直江と会わない土曜日など想像もできないくらい直江 に縛られている。来年の今日、自分はまだ直江とつきあっているのだろうか。 その時。 「高耶さん……」 金縛りが解かれる。高耶は身を翻して駆け出した。後ろで直江が名前を呼ぶ声がす るが、怖くて振り返れない。 訳がわからなかった。なぜ自分がこんなに動揺しているのか、高耶にはわからなかった。惨めな自分に涙が出そうで、夢中で駆けた。 だから気がつくのが遅れた。 横を向くと視界いっぱいに赤い車が映った。鋭いクラクション。地面が回る。悲鳴 のようなブレーキ音。誰かの叫び声。 「直江……?」 その呼びかけに返事はなかった。
高耶をかばった直江の怪我は幸いなことにひどくなかった。しかし入院を余儀なくされ、高耶は看病に毎日通う羽目になった。それから一年。二人でいる時間は心地よ いものへと変わっていた。この関係がずっと続いていって欲しい。 何年経ってもおまえと一緒にいたい――。 つぶやく高耶を抱き寄せ、直江は心からの笑みを浮かべた。
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<LUCIAさまコメント> <恭子こめんと> |