うらしまたかや

〜そのに〜

ばーい てりーさま

 豪勢な食事、見たことのない芸。初めは、物珍しさに目を奪われ隣にいる 直江の事なんて
忘れていた高耶だったが、それでもふと視線を感じて隣を見 ると、そこには優しい目をした
直江がいた。

お父さんって、本当はこういう感じなのかな。

直江としては不本意なことだが、確実に高耶の心を捉えつつあった。高耶 の心を推し量る
ために、その目の前で女官といちゃついた(……)事もある。 その時高耶は、自分では気づいて
いなかっただろうが、直江を寂しそうな目 で見て、一方の女官の方をすごい目つきで睨んでいた。

これはだいぶいい感じになってきてはいるが、もっとしっかり高耶さんの心を捕まえて
おかなければならない。
高耶さんの心をなんでもいいからこっちのモノにしておけば、後で俺のテ クでいくらでも
どうにかなる。

父親のように思われていようが、淡い恋心であろうがとにかく高耶の心を もっと自分の方へ
向けておく必要があると感じた直江は、ある一計を考える。
そうして高耶はまた、自分の知らないうちに直江の計画の中へと巻き込ま れていくのであった。

 

「あれ、ねーさん。直江は?」

いつものように、朝の食事を摂りに行った高耶は定位置に直江の姿がない ことに気がついた。
そしてかわりに、朝はここにいることがきわめて少ない 綾子の姿を見つけたのだ。

「え…っと、おはよう。景虎」

景虎というのも、綾子にいつの間にか付けられた名前である。いつもなら、 もっとおおぶりな
動作をする綾子だったが、今日はどこかおかしい。一瞬高 耶から目をそらして、そして今も
どこか取り繕っている感じがする。

「おはよう、ねーさん。だから、直江は?」

「あら、聞いてない?直江はどうしてもはずせない用事があって、今日か ら2,3か月
留守にするって」

そんなことは寝耳に水な高耶である。昨日の夜別れたときだって、"では 明日の朝"と
言っていたのに。
そんなことを思っているのが顔に出ていたのだろう、綾子が慌ててフォロ ーをする。

「あ、でもなんだか急に決まったみたいだし。景虎がよく寝てたから起こ すのが
忍びなかったのかもね」

「そうなのかな…」

「そうよ!絶対そう」

綾子の迫力に押されたという感もしないではないが、高耶はそれを信じる ことにした。
いつも自分には優しい直江のことだから、きっと自分の睡眠時 間を削る事に抵抗を
覚えたのであろう。

納得している高耶を目の端で捉えながら、綾子は胸をなで下ろしていた。
いくら自分が直江に借りがあるからといって、この子をこれ以上騙してい るのは忍びない。
高耶にはどこか庇護欲を誘われるところがある。
自分のしていることに罪悪感を覚えながらも、直江に逆らうことはできな いので一生懸命
高耶を騙し続ける。きっとこれが高耶の幸せになるのだと信 じて。
綾子は自分も無理矢理納得させる。それから、どことなく落ち込んでいる 高耶を元気づける
ために連れ出すことにした。

 

1ヶ月経ち、2ヶ月経っても戻ってこない直江。高耶の元気も反比例の曲 線を描くように
下降していく。
どうしてこんなに自分が落ち込んでいるのかもわからず、高耶は自分に充てられた部屋の
ベッドの上で横になっていた。

「直江の馬鹿…。お前のことが気になって帰れないじゃないか…」

高耶は思わず自分でそう呟いていることさえもわかっていない。自分が美 弥の待つ地上に
帰れないのも、直江が帰ってこないのでお土産をもらえない からだと思っている。でも、本当は
お土産よりも直江に会いたかったのだ。
あのやさしい瞳の男に。

「早く帰ってこいよ…」

自覚のないつぶやきを続けながら、高耶はベッドの上で寝返りを打つ。自 分の言葉が半分以上
連れない恋人を待つような言葉になっていることもわか らずに。
しばらくそれを続けていただろうか。部屋の外側が騒がしいことに高耶は 気づいた。
何だろうと思い、ドアを開けて外を見る。廊下にはどこにこれだけの人が いたのだろうと思う
くらいの人がいた。みんななぜか慌てた様子である。
何かあったのだろうとは思うが、自分はこれに関わることはできない。俺はただの人間なんだから、
と高耶は自分に言い聞かせる。
せめて大人しくしていようと、部屋のドアを閉めようとしたとき綾子が走 り寄ってきた。

「景虎ぁ!大変なのよっ!」

「どうしたんだ?ねーさん」

綾子がこんなに慌てた様子を今まで見たことがなかったので、高耶は驚き ながら尋ねる。

「…あのね…」

大変だといった割に、高耶にその事を告げるのを躊躇う綾子の様子に、不 思議なものを
感じていた。けれど、綾子の顔は本当に焦っていたのだ。

「ねーさん、とりあえず中に入ったら?」

そんな綾子に掛ける言葉が見つからず、そしてどうして自分の所に報告に 来たのかも
わからないまま高耶は綾子を部屋の中へ招き入れた。
気分を落ち着けるように椅子に座り、一息ついてから綾子は話し出した。

「直江がいないときにこんな事が起きるなんて、私たちも思っても見なか ったんだけど…」

そうして綾子が話し始めたことは、高耶の崩れ欠けた常識をさらに粉々に するような物だった。
話を短くまとめると、高耶を見初めてしまった者がいた。それは直江が封 じたはずだったのに、
それを破って出てきた者で、高耶を手に入れるために この城の者たちをさらっているというのだ。

「こんな事になってるのに、直江は一体どこにいるのかしら…」

綾子も首を傾げることしかできない。直江の計画を知っていたが、非常事 態が起きているのにも
かかわらず現れない直江に苛立っていたのだ。

「…ねーさん、それってさ、俺がそこに行けばいいんじゃねぇのか?」

高耶がぽつりとこぼしたその一言に、綾子は飛び上がった。実際要求され ているのは、高耶の
身柄だったのである。高耶を差し出せば、さらった者は 返してやると言われたのだ。しかし、
そんな行動をとったことを直江が知っ たときのことを考えると、この城の者たちは誰もそれを
実行に移せと言うこ とができなかったのだ。

「だっ、駄目よっ!そんな事したら、直江になんて言えばいいか…」

慌てたあまり、余計なことまで話しそうになった綾子の口を後ろから誰かがふさいだ。

「お前がそういうつもりだったら、こっちも協力してやるぜ?」

「ちょっ…、あんた一体どこから入ったのよっ!」

高耶はいきなり自分の部屋に現れた、茶色い髪の男にびっくりして声も出 なかった。何度か
見かけてはいるのだが、こんなに間近で見たのは初めてだ ったのだ。

「そんなことは気にすんな。…おい、高耶。お前を手伝ってやる。お前だ ってそいつのモノに
なりたくはないだろう?」

目の前の男に言われる言葉に、高耶もようやく正気に返った。そうなのだ。 自分を差し出すと
言うことは、その"者"とやらに手込めにされると言うこ とになる。自分は男なのに、手込めに
されるなんてまっぴらごめんだ。

「もちろんだっ!…所でお前の名前は?」

「ああ、俺は千秋って言うんだ。お前がシンゲンを倒すのを手伝ってやる」

ウインク付きで告げられた言葉の中に、一つだけわからない単語があった。

「"シンゲン"って何だ?」

その言葉に千秋は呆れたような顔をする。

「お前のことを欲しがっているヤツのことさ」

その言葉に、高耶は決心を新たにする。シンゲンを倒して、ここの城の人 たちを助けるんだ、と。
そんな高耶の決心がわかったのか、綾子は諦めたような顔をして言った。

「景虎。あんたがそのつもりなら、私も一緒に行くわ。…これをあなたに 貸してあげる」

そういうと、綾子は空中から一振りの剣を取り出した。

「これは、毘沙門刀というの。あなたなら、これを使いこなせるはずよ」

高耶は綾子から渡された剣を手に持った。不思議と自分の手になじむその刀を、高耶はじっと
見つめていた。

「そうと決まれば、出発だ」

千秋はどこか面白そうな顔をして、はっぱをかけた。この男、早く出てい きたくてうずうずしてた
のである。
そして、高耶と千秋、綾子の旅は始まった。

 

何事もなく順調にシンゲンの所まで来て、そして何事もなくボスのシンゲ ンの所まで辿り着いた。
これには、シンゲンの懐刀のコーサカがいなかった ことも大きかった。
そして、高耶は今毘沙門刀を手にシンゲンと戦っている。千秋と綾子はそ れを遠くかなら眺めて
いるだけだ。

「なあ、俺らの手助けいらなそうだよな」

「そうねぇ、景虎があれだけ毘沙門刀を使いこなせるとは思わなかったわ」

戦いに参加してない二人はのんきなものである。時折来る雑魚を片づける だけなのだから。

「それよりも、ダンナは一体どうしたんだ?」

「あたしだって知らないわよ。これも直江の計画の一つかと思ってたけど、 実際にシンゲンは
復活してるから、違うみたいね」

二人が直江から聞かされていた計画では、もう後1,2週間したら直江が 現れて、寂しそうに
していた高耶を慰める、ということになっていたはずだ ったのだ。しかし、こんな事が起きても
直江は現れない。

「もしさ…」

千秋が右手で雑魚を片づけながら、綾子に言う。

「高耶のヤツがシンゲンを倒したら、あいつは直江よりも強いって事だよ な。そしたら、城の
大臣たち、高耶を竜王にするって言うんじゃねぇか?」

「そうかもね。実際強いものが王の方がいいわけだし…」

そうして二人顔を見合わせて、にやりと笑った。

 「「直江を竜王の座から追い落とそう!」」

一方そんなことを話し合っているとは知らない高耶は、目の前にいるシン ゲンを倒そうと
していた。かなりの怪我を負わせているので、そろそろこの タコも死ぬだろう、と高耶は
考えていた。
そうなのだ、シンゲンは巨大なタコだったのだ。8本あった足の6本を切 り落とし、シンゲンは
その巨大な体を支えるだけで精一杯になっている。水 の中ではシンゲンの最大の攻撃
"墨吐き"もすぐに潮の流れに乗ってしまっ て、高耶に届く前に散ってしまう。シンゲンは
苦戦していた。

「シンゲン!覚悟!」

そして高耶は致命傷を与えた。シンゲンを頭の上からまっぷたつに切り裂 いたのだ。
そうして、シンゲンは倒された。シンゲンの部下たちも、主人が死んだこ とを見てあちらこちらに
散ってしまった。
シンゲンが死んだので、その結界がとけて、さらわれた竜宮城の人たちが 忽然と現れた。
何にせよ、一件落着である。高耶は胸をなで下ろした。後ろにいる二人の 思惑も知らないまま。

 

千秋と綾子は、高耶がシンゲンを倒すのを見て、すぐに軒猿を城へと送った。

『高耶がシンゲンを倒した』

と伝えるために。高耶が城に帰ったら、すぐにでも竜王即位の儀式が始ま るだろう。

「千秋!ねーさん!シンゲンを倒したぜ!」

嬉しそうにこちらに走ってくる高耶を見ながら、千秋と綾子は心の底から わき上がってくる
にやけた笑いを爽やかな笑顔の下に隠して、高耶を迎えた。
そして高耶が竜宮城に戻ると、高耶はすぐに竜王の間へと連れて行かれた。
わけのわからない高耶をよそに、いきなり竜王の椅子に座らされ、そして 得体の知れない
白い玉を飲まされた。

「ちょっと!何すんだよっ!」

高耶にはわからないことだらけだ。今飲まされたものの正体もわからない し、そして何よりも
この席は直江のものだったはずなのだ。
しかし、誰も高耶の疑問に答えてくれる人はいない。ようやく、千秋と綾 子がやって来た。
こうなった理由を聞こうと口を開きかけた高耶だったが、二人の行動にそ の口さえも言葉を
発しないまま固まってしまった。
いきなり跪いて最敬礼を取られたのだ。二人の行動に従って、残りの人た ちも高耶に向かって
跪く。
今度こそ、高耶は本当に気を失いそうになった。一体こんな事をされる理 由がどこにあると
いうのだ。

「仰木高耶様。今からあなたが竜王です。これからは私どもを手足と思い、 存分にお使い
下さい」

直江の部下だと思っていた八海が高耶に告げる。その言葉に従って、千秋 と綾子を除く全員が
頭を下げて、退出していった。
呆然としている高耶に、千秋が真実を語りかける。

「高耶。お前はシンゲンを倒したんだ。直江には封印することしかできな かったシンゲンをな。
ということはお前は直江より強いことになる。強いも のが竜王になるんだ」

「だけどっ…」

何かを言い募ろうとした高耶の言葉を遮って千秋は続けた。

「直江だってげんにそうやって竜王の地位を得たしな。それにさ、お前は 知らないだろうけど。
直江のダンナはお前を手に入れるために姑息な作戦を 立てたんだぜ?」

そうして千秋の口から明かされていく直江の計画を聞いているうち、高耶 は怒りを抑えることが
できなくなってきた。
聞いてみれば、もう地上の家族から自分の記憶は消されているというし、 ここでの1日は地上の
100日だし。何よりも高耶を憤慨させたのは、いじ められていた亀を助けるところからすでに
直江の計画だったというのだ。

「亀をいじめてた子供の二人はこんなんじゃなかったか?」

そういって千秋と綾子が変身した。その姿は確かに亀をいじめていた子供 だったのだ。

「これでわかったでしょ?亀は、直江だったのよ」

交互に明かされていく真実。もう高耶の怒りは限界を超えていた。

「直江の野郎っ!俺を騙してたんだなっ!…どきどきしてそんしたぜっ!」

思わず拳をつくりながら叫んだ高耶は、千秋と綾子に向かって言い放った。

「俺は竜王になるっ!…直江が帰ってきたら俺の所に引っ張ってこい!」

そして足音高く、竜王の部屋へと閉じこもってしまったのだった。
残された二人は、これで直江の横暴から逃れられるとほっとしていたとさ。
…直江以上に人使いの荒い高耶の性格も知らずに。

 

直江はうきうきしながら竜宮城へと戻ってきた。
これだけ焦らせば、いくら高耶さんといえども寂しくなっているだろう。 そこを私が慰めて…。
とこれから起こるだろう事に思いを馳せていたのだ。
今までは馴染みの女の所にしけ込んでいたのだ。高耶を襲うわけにはいかず、
自分の欲望を解消する方法がそれしかなかったのである。
そして、浮かれた気分で竜宮城の門をくぐった直江は衛兵にいきなり拘束 された。

「なにをするっ!私は竜王だぞ!」

「今の竜王は景虎様だ」

衛兵から告げられることに直江は絶句した。
クーデターを起こされたのである。自分のいない間に、高耶が竜王となっ ていたのだ。
そして、3か月前まで自分の部屋だった竜王の間へと連れて行かれる。
そこには、冷たい目をした美しい高耶の姿があった。

「直江、どうして俺がここにお前を呼んだのかわかっているな?」

冷たい視線に冷たい声。高耶から与えられる言葉に、直江は高耶の後ろに いる千秋と
綾子を睨みつけた。二人はにやにやと笑っている。
直江はこれから自分に起こるだろう事を考えていた。

『シンゲン!いくら好みのタイプだからと言って油断しないでくれ!』

と、場違いな文句を心の中でいいながら。  それから、直江はようやく高耶の信頼を取り戻し、
高耶の補佐へと収まっ たという事だ。
ここまでくるのに人界の時の流れで何年かかったかは定かではない。
高耶さんを自分のモノに!という直江の野望は叶えられることがあるのか。
けれどそれは遠い先のことではないかもしれない。高耶次第であるけれど。
直江は、高耶の心をえるために精一杯働きましたとさ。 おしまい

 

 

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くくく。さすがてりーさま!さりげに直江けちょんでしたね!
毘沙門刀を振りまわす高耶さん…ううう、久しぶりで涙でそう;;;
闘う高耶さんはかっこいいけど相手はシンゲン、しかもタコvvv
このあとふたりのラブラブ編なんかあるのでせうか。
ぜひぜひよんでみたいでーす♪
てりーさま、すてきな童話ねた、ありがとうございました!!

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