月の雫こぼれる中、 真白きベールその身に纏い波にたゆたう。 震える肩に口づけを落とし、もがくその体抱きしめる。 腕の中、響くは愛しい鼓動――。
*
「ぁ…」 小さな声を漏らして、腕の中の青年はその身を震わせた。 男の熱い唇が青年の喉元を擽っていた。時折舌を出してはそこをねっと りと舐 め上げ、 その度に腕の中に捕らわれている獣は身を震わせ、感じて いる事を男に知らし めた。 男の逞しい両腕が、青年の足を高く掲げた。窓から差し込んだ淡い月明 かりが、 二人の淫らな姿を壁に大きく映し出す。 そこを露わにされて、羞恥を覚える間もなく男を受け入れた。 熱く、堅いものが狭い入口に割り入ってくる。 「ゥ……」 身を引き裂かれるかのような痛みにじっと耐えて、高耶は男の侵入を どこまで も許した。 体の奥でズズ…と蠢くものに肌を怖気させながら、高 耶はその身に男を受け入 れていく。 ドクドク、と熱く力強い脈動が、入れ られている部分にリアルに伝わってくる。 息苦しい圧迫感の中、高耶は絞 るように呼吸している。 うっすらと開いた高耶の瞳に、涙が溜まり始めた。 「高耶さん、苦しいの?」 問いかけに、高耶は緩く頭を振った。 苦しいからなのか、気持ちいいからなのか、自分でもわからなかった。 ただ、自然に、涙が頬を伝い落ちる。 その月光に照らされた白い顔が、男にはやけに儚げに見えた。思わず伸 ばした 手で、高耶の体を掬うように両腕を回すと、抱き上げてその身を自 分の上に落とした。 こうする事で、彼をすぐ傍に繋ぎ止めたかった。 「……っ」 自分の体重で男を深々と受け入れる事になった高耶は、声もなく後ろ に大きく 仰け反る。 体勢が崩れ、まるで全てを男の前に晒し出すかのように……。その、大きく逸ら された喉に眩暈を覚えた男は、熱い口づけを贈る。吸われて、ぴくっと震えた腕の中の高耶 が、その口から喘ぎを漏らした。 「高耶さん…。気持ち、いい?」 鼓膜を擽るラジオボイス。 いやいやをするかのように振られる頭をなんなく抱き込んで、男は高耶 の体を ずらしてやる。 その動きに、繋がっている部分が擦れて高耶は涙を零した。 「ぁ……、やぁ…………」 「気持ちいいでしょう?こうすると」 男は高耶の臀部に分厚い手をかけると、体を上下に動かしてそこに快感 を送り 込む。ズズ…、ズズ…とそれが出入りを繰り返すたびに、高耶は 感じて体をブルリと震わせた。 「ぁ……、あぁ…」 先ほどから一度も触れられていない高耶のそれが、体を動かされる度に頼りなく 震えた。 快楽の涙を流すそれは、男の腹を白く汚している。大き く反り返っているのは、 感じているからだ。白い雫を零して、男の愛撫を 待ちかねている。 男は知っていて、わざとそこに触れようとしなかった。 「なぉ……っ!あぁ…ン」 触れて欲しい!と意思表示しても男は動こうとしない。知らん顔して 行為を続 けている。 「……っ」 どうしようもなくて焦れた高耶は、自発的に体を揺り動かし快感を得よ うとし た。だが、後ろだけではイけない事を知ると、仕方なく震える両手 をそこに伸ばしていく。 「!」 その手を難なく封じ込んだ男は、口元にかすかな笑み浮かべると、その まま後 ろに強い刺激を 送り込んでやる。 「あっ、ん、なおえっ!あぁん、ぁ…ぁ!」 自分で与えるのとは比べようもない快感の波に襲われて、高耶は男の背 に強く 爪を立てた。 何とも言えない痺れるような感覚が縦横無尽に体を駆 け巡り、肌が小さく痙攣 する。 「ヒ、ァ………!」 足をピンと伸ばした高耶は大きく体を震わせると、一気に爆発したそれ を男の 腹へと散らしていた。 荒い呼吸が夜の静寂に木霊する。 くた…と、高耶の体が男に凭れかかった。熱い肌が、激しく脈打つ鼓動 が、彼 が未だ興奮状態であることを 知らせている。 男は、今一度高耶をシーツの上に横たえると、大きく足を割らせ、弛緩 したそ こに激しい注挿を 繰り返してやる。 「ぁ……ぁ……」 未だ呼吸が整っていない高耶は、眉根をキツく寄せてその動きに耐える。震える 高耶の手がシーツを掻き乱し、幾重にも皺を作った。段々早くなる動きに息が上がる。 強く擦られる刺激に、一度達したものがまた勃ち始めた。 高耶は無意識のうちに、男が入ってくる度に後ろをキュッと窄めていた。 そして出ていく時には、 名残を惜しむかのように熱い粘膜が男に絡みつく。 「やぁ……ぁ、い、やっ…………な、お…」 嫌がっているのは言葉だけだった。何故なら、満足したはずの前もまた大きく反 り返っている。 顔を上気させ、目に涙をいっぱい溜め、口元から 唾液を零して快楽にむせび泣 く姿は、男の劣情をどうしようもなくかきたてる。 (魔物だ…。彼は魔物だ……) こんなにも狂おしく自分を捕らえて離さない彼は、魔物に違いなかった。 理性なんて、とっくに無い。 彼に囚われ、彼を喜ばせるためだけに腰を 振り続ける。 (あなたは、魔物なんだ) 身を焦がす悦楽によがり狂う高耶の顔に、その時一瞬挑発めいた笑みが浮かんだ 気がした。 「……!」 腕の中の高耶が、妖しく男を誘う。 ―――もっとだ。もっと奥まで来い…。 ―――こんなんじゃオレは満足しやしない。 ―――激しく腰を使い、オレを陥落させろ!どこまでも深く犯し殺せ!! ―――お前の全てを絞り入れろっ!! …早くっ、はやくっ……!! 高耶を抱いている男が、ゴクリと息を飲んだ。 動きを止めて高耶を見下ろしてみるが、今のは幻覚だったのか?腕の中の高耶は 、あえかな吐息を漏らして悶えている。 (今のは一体……) 「なぉ…っ、早くぅっ!」 高耶の、直江を呼ぶ声にハッとした。 動きを止められて焦れた高耶は、シーツを弱々しく掻きむしっている。 睫を濡らす涙や、 流れ落ちる汗がきらめいて、高耶をより一層婀娜めいて 見せていた。 (高耶、さん……) 青年を貫いている男の息も段々荒くなる。全て絞り取られるかのようなキツイ締 め付けに、男は小さなうめき声を漏らす。 「くっ……」 男の端正な顔が悦楽に歪んだ。頭の中が白く霞んでいく。 男は、動きを再開した。 途端に高耶の顔に満足気な笑みが浮かぶ。 「アッ……ハ……」 「……ッ」 高耶の艶めかしい嬌声を聞きながら、男は思う。 快楽に流されているのは、もしかしたら自分の方なのかもしれない。 (何にも知らない無垢な少女のような顔して――) 高耶は、どこまでも男を貪り尽くす。 最後の一滴まで搾り取ろうとするかのようなキツい締め付けで、高耶は 男を狂 わした。 一見、支配しているのは男のように見えて、実のところ、 支配しているのは高 耶の方であった。 (だから、彼は魔物なんだ) 男は体をぐっと沈めると、ぴくぴく震え始めた高耶のそれを、自分の腹で擦って やった。その刺激に高耶は涙を飛ばし、一際大きく啼いた。 互いに奪い尽くすかのような求め合いの末、直江は欲情の滾りを高耶の中へと絞 り込んだ。 そして男が自分の中で弾け散った事を体の奥で感じた高耶 は、自らもその欲望 を解放したのだった。
*
真っ暗な海原の中、泳ぎ疲れた青年は静かに横たわる。 その身に気怠い気を、纏わせて…。 先ほど男を狂わせた魔性めいたものは、その顔にはない。 ただ、ただ、どこまでも安らぎに満ちた寝顔だった。 青年を見守る男もやがて眠りにつく。 その身をつなぎ止めるかのように、寄り添って。 もう、二人を照らすものは何も、―――ない。
白いシーツに横たわるは、一匹の熱帯魚。 男の腕の中でだけ泳ぐ、熱帯魚。
今は、静かに眠る……、男だけの熱帯魚。
end (2001.07.10改稿)
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Diamond Ringの京香さまよりいただきました♪
魔物な高耶さんに溺れていく直江…
熱帯魚のイメージともども、幻想的でステキー(>_<)
でもほんと、高耶さんて自覚ナシで男を悩殺してますからね〜。
きっと抱く度に違う表情をみせる…とか考えていそう>N
きぃぃっうらやまぢ〜〜〜!!!
京香さま、ありがとうぅ〜〜〜(>_<)
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