The Dark Moon Night

「…は…っ」
月明かりを通さぬ帳の中で、熱い吐息が絡み合う。
衣擦れの音がするたびに、吊り下げられたランプがゆらゆらと揺れる。
外の月光よりはるかに頼りない光が、二人の間にまだらの影を落としていた。
「明かり…消せよ…っ」
下服を剥かれた高耶が小さく抗議する。直江は両足を抱え上げ、目の前で
屹立するものに舌を這わせた。
「ぁあん…っ」
びくりと背を反らせて張りつめる様子に直江はひっそりとほくそえむ。舌先で
静脈を辿ってやると、若い雄ははちきれんばかりに反りかえって透明な雫を滴らせる。
決定的な愛撫は与えず、嬲るように輪郭だけをなぞっているうちに、後庭の入り口が
ひくひくと蠢き出す。奥の様子まで感じさせるいやらしい動きだ。ソコに誘い込むように
腰が揺らめいている。
直江は中途半端な刺激に焦れる高耶の様子をつぶさに観察していた。オレンジ色の
人工の光に高耶の恥部をあますところなくさらして。
「オトコは暗闇では燃えないんですよ、高耶さん――あなただってそうでしょう?
恥ずかしい部分を明かりに照らし出されただけで、ほら、もうこんなに後ろを
ひくひくさせて…ああ、そんなに暴れないで。いまあげるから…」
羞恥と期待に震える花弁を両の親指で割り、深く深く舌を入れる。熱く迎え入れる内部に
舌を這わせ、抜き差ししながら吸い上げる。誰の目にも触れない場所にディープキス。
きゅっとすぼまりながら貪欲に侵入者を求める後庭と、消え入りそうな表情で濡れた声を
漏らす高耶を交互に見ながら高耶の手を取り、しなやかな指をソコに埋めさせた。
「や…何す…っ」
「気持ちイイでしょう…?あなたの中は」
驚いて引き抜こうとするのを許さず、自分の手を添えて抜き差しする。高耶の指を飲み込んで、
熱い内壁はそのカタチにそって押し包むように収縮し、擦れる関節から快感をひきだそうとする。
いやらしい音が辺りに満ちた。高耶の指に添えて、太くて長い己の指をも挿れてやる。
「アッ…ァ…」
「あなたの中の天国を…俺だけが知っている。軍神のようなあなたの中で、こんなに淫らに
息づいてる、強さの裏でいつでもかつえているところを。
私はいつもここで感じている…あなたの熱さを。生に対する貪欲さを。」
締めつける内壁に関節を擦りつける一方で、とめどなく透明な雫を垂らしている果実を口に含む。
熟しきった果実は舌でざらりと舐め上げる度にソレはびくびくと膨張し、強く吸い上げた途端に
あっけなくはじけた。青臭い精を直江は残らず嚥下する。
獣の体勢に組み敷いて、猛りきったモノを一気に挿れた。そのまま嵐のように揺さぶり出す。
「…ア…ァ…ァアッ…」
確実に弱点をついてくる攻めに高耶は喉を反らせて喘ぐ。しなやかな腰は男の動きにあわせて
艶かしく揺れ、己を苛む兇器をいとおしげに締めつける。背骨にそって舌を這わせると高耶は
さらに激しく腰を振りだした。
「そう、もっと求めて。最後の一滴まで搾り取って。あなたは俺をやめられない。コレがあるから
死ぬこともできない。あなたは根っからの淫乱だから」
耳朶を噛みながら囁く言葉すら官能の攻め口となる。高耶は感じ入った声をあげながら、二人が
繋がっている部分に指を這わせる。行為の間だけ、何よりも確かな二人の楔――この一時だけ
自分達は永遠を手に入れる。
「あいしてくれ…オレを…愛して…ッ」
泣き叫ぶような懇願に、直江は堪らず唇を奪う。欲しがる口腔を余すところなく蹂躙する。
整った歯列の一つ一つを舌先でなぞり、舌を絡ませ、唾液を飲ませる。直江は高耶の身体を
起こすと、楔を入れたまま、ぐるりと回して正面を向かせた。高耶の口から甘い叫びが迸る。
己の上体を倒して、下から高耶を突き上げながら直江は囁く。
「これだけは忘れないで。たとえ世界中があなたの敵にまわっても、私はあなたを愛しつづける。
あなたが周りにどんな災厄をもたらそうと、私だけは傍であなたを守りつづける。
だからあなたは生きてください。このあなたの貪欲で熱い生のままに、したたかに」
キツイ締めつけに絞りとられるように、直江は低くうめいて逐情する。
同時に手のひらに熱い精が吐き出された。

それから気が狂ったように求め合って、しまいには気絶するように眠りに落ちた高耶の前髪を、
直江はそっとかきあげる。額に浮かび上がる不吉な種字。高耶は未だこれに気づいていない。
おそらく、これが高耶自身に作用するものではないせいだ。
直江は別に構わない。高耶以外の人間など、どうなってもいいからだ。
(だがこのひとは苦しむだろう)
まったくこんなものをつけられて――どこの誰とも知らぬ者が勝手につけたしるしの上に
直江は自分の唇を押し当てる。嫉妬のままに、跡がつくほど吸い上げる。高耶が顔をしかめて
ちいさくうめく。だが目覚める様子はない。
だれがなんといおうと、当分彼の傍にいなければ。おそらく一番反対しそうなのは高耶当人なのだが。
翌朝からはじまるであろう、さまざまな意味での戦いに備えて、直江もしばしの眠りについた。

<おわり>

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