五月 時鳥


5


「アカギ…俺が悪かった…反省してるから、いいかげん機嫌直してくれ…」

連れ立って歩く気など毛頭ない速度ですたすたと先を行くアカギに必死で追いすがりながら、
南郷は何度も謝罪の言葉を口にした。
片手は先ほど殴られてずきずき痛む頬を押さえ、もう片方はアカギの腕をつかまえようかどうか迷っている。
こんな時に触れたら、ますます彼を怒らせるかもしれない。
だが見失いでもしたら、それこそ永遠の別れになりかねない。
ただでさえ、今度はいつ会えるかもわからないのに、こんな風に喧嘩別れするのは嫌だった。

「なあ…アカギィ…」

額からだらだらと汗を流し、息を切らしながら、世にも情けない声で南郷が声をかけると、
アカギはふと立ち止まった。

「アカギ…?」

南郷は躊躇した。アカギは、南郷のために足をとめたわけではなかった。
もう駅や繁華街はとっくに通り過ぎて、休日のため人気のいないオフィス街に足を踏み入れていた。
アカギが顔を向けたのはビルの谷間にある小さな神社だった。
この神社がどうかしたのか…と問おうとした時、南郷にもそれが聞こえてきた。

キョッキョキョキョキョ…

こんなところで耳にするのが珍しいのだろうか。狭い敷地に植えられた木々のどこかから響く声に、
アカギはじっと耳を澄ませていた。

「ホトトギスだな」

そういや、最近聞かなくなったなあ、と思いながら言うと、アカギはへえ、と相槌をうった。
アカギが返事をしてくれたのがうれしくて、南郷は昔きいたことがある話を記憶から引っ張り出して、言葉をついだ。

「なんでも、故郷に帰れなくなった王様の魂が鳥になったらしい」

近くで聞けばけたたましいに違いないその鳴き声が、どことなく寂しげに聞こえるのは、そのせいだろうか。
そんなことを考えていると、アカギはやっと南郷を見て、博識だね、南郷さん。とうっすらと笑った。

鳥居の前で、しばらく鳥の声を聞きながら、二人して煙草を吸った。
言葉はなかったが、さっきのような居心地の悪さはもうなかった。

南郷は先に吸い終わると、ためらいつつも、アカギにお伺いをたてた。

「…なあ、手、繋いでもいいか?」

ほとんど人通りがないとはいえ、いい年した男同士で手を繋ぎたいとは、大胆な申し出である。
けれど、アカギと仲直りがしたかったし、また無性に手を繋ぎたい気分でもあった。
そんな南郷の感傷を知ってか知らずか、アカギは煙草の火を消すと、小さく笑って、手を差し出した。

白くて指の長い、でも節の太い男の手だ。他でもない彼の手の指に自分の指をからめると、
自分の一番大事なものを手にしている安堵と幸せが南郷を包んだ。

すっかり満たされた気分になった南郷は、ここはどこだ、駅はどっちだ、と言いながらアカギと共に歩き出す。

「夕飯はどうする?そのう…当分うちにいられるのか?」
「あんたが、あの鳥みたいにオレを鳴かそうとか、ろくでもないことを考えていなければね」
「うっ…」

いつのまにか傾いて茜色になった太陽が、静まり返ったオフィス街も、その谷間で手を繋ぎながら歩く二人も、みな同じ色に染め上げていた。





おわり

ううむ…ものすごく、こじつけくさい…収拾つかなくて困った…
読んでくださってありがとうございました;;

アカギ部屋