アカギがふらりとやってきた翌日、出かけようと言ったのは南郷の方だった。
せっかくの休日だし、天気もいいし、出かけなければもったいないとおもったのも確かだが、
なにより、アカギと出会ってかれこれ二十年にもなるが、
これまで一度も、アカギとデートらしいデートをしたことがなかったのだ。
「いいですよ。どこに行きます?」
意外とあっさりと了承したアカギに、南郷は銀座がいいと言った。
デートの定番と言えば銀座で映画。
そんないかにも普通の恋人同士で辿りそうなコースを、アカギと歩いてみたかったのだ。
洋食屋で昼ご飯を食べて、中央通りと晴海通りを歩いて映画館へ。
アカギはその白髪と、どう見ても堅気には見えない白いスーツのせいで、よく目立った。
慣れているのか、通行人の視線を浴びてもアカギは素知らぬ顔だ。
大人二人分の観覧料八百円を払い、チケットを受け取る。
少し考えて、南郷は真ん中の一番後ろの列の席を選んだ。
「男二人で見に来る映画じゃないね」
「うっ…仕方ないだろ、他にちょうどいい時間のがなかったんだから」
ククッと笑って指摘するアカギに、南郷が赤くなって言い訳する。
だがアカギの言うとおり、上映されるのは恋愛映画。客層のほとんどはカップルである。
場内が真っ暗になって、映画が始まった。
南郷も恋愛映画にさして興味があるわけではない。
そもそも、映画自体今までに数えるほどしか行ったことがなかった。
「一緒に映画を見る」こと自体が目的だったとはいえ、
やはり映画を選ぶべきだったかなと南郷は後悔していた。
これではアカギが退屈してしまうのではないだろうか。
ストーリーも上の空でそんなことを考えていると、ふいに手を重ねられた。
冷やりとした手だった。
びっくりして横を見ると、アカギはさして興味なさげにスクリーンを見ている。
たまたま手が当たったのか。
南郷は戸惑った。別に清い仲でもあるまいし、今さらどきどきすることもないのだが、
アカギが人前でこんなことをしてくるのは初めてだった。
そこまで考えて、南郷は思い当った。
人前だがここは真っ暗な映画館の中。
こういうことができるのが映画デートの醍醐味なんじゃないか。
南郷は手のひらを返してアカギの手のひらと合わせ、指をしっかりと絡めた。
細く長い指は、それでも節が太くて筋張った、明らかに男のものだ。
だけど、この手に触れるのは、他のどんな滑らかな女の手を握るよりも南郷をどきどきさせる。
南郷は手の感触を確かめるように、握る手に少しだけ力を込めた。
そうやって幸せをかみしめていた南郷だったが、そのうちに手のひらにかいた汗が気になりだした。
どうしよう。一瞬手を離して拭うか。
これだけしっかり握っているのを振りほどいたら、気を悪くしないだろうか。
だがこのままぐっしょり汗をかいたままなのもどうか。
アカギの手は南郷の手が触れているところは少し温まったものの、相変わらずさらりとしたままだ。
南郷の手のひらの汗を、気持ち悪いとおもうんじゃないだろうか。
気になりだすと、よけいに手のひらから汗が噴き出る気がした。
と、その時、アカギが手を離した。
絡めた指を振りほどいて離れていく。
南郷はほっとすると同時にやや寂しい気持ちになりながら、そっとズボンで手をぬぐった。
アカギも、もしかして南郷の手の汗が気になったんじゃないだろうか。
そんなことが気になり出し、ひじ掛けに戻した手を、所在なさげに動かしていると、
いきなり股間を鷲掴みされて、南郷はとびあがりそうになった。
2
合同誌用に用意していた話その2です。場所はちがっても似たような展開…すいません。
アカギ部屋
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