完璧なひと程
唯一の欠陥は程度が大きい
力加減
「あー!また進さんっ…」
「む、すまない」
夕食のメニューを決める為冷蔵庫を確認すれば、以前買っておいたひき肉が残っていた。だから今晩は
ひき肉を使ったメニュー…という事で他の材料の事も考えてすべてそろっているハンバーグに決定した。
進と瀬那は二人でキッチンに立ち、野菜類をフードプロセッサーで細かく砕き(勿論瀬那が)ひき肉に
卵その他もろもろを入れたたねにその野菜類を加える。そしてたねが出来上がりさぁ形を整えましょう
という事になったのだが…
「だから!優しくでいいんです、力入れないで」
「…こうか?」
べちゃ
「……もう…進さんの馬鹿力…」
たねを6等分に分け、丸く形を整えながらハンバーグを作る時のセオリーである空気抜きをする。手から
手にぶつけ合うようにしながら空気を抜いていく。瀬那は絶妙は力加減でうまくいっているのだが、問題
は進の方にあった。
一回手からもう片方の手へ渡すだけで、丸く形を整えたたねは形を保っていられない。ただのたねに逆戻
りしてしまうのである。何度瀬那が力を抜いて、優しく、丁寧に、といったところで機械でさえいとも簡
単に破壊してしまう進には、所詮無理な事だった。5回目のチャレンジが失敗に終わったところで瀬那が
溜息をつきながら、進に伝える。
「進さん、こっちは僕がやりますから。進さんはスープの準備してくれませんか?」
「…その方がよさそうだ」
「じゃあお願いしますね」
進自身も自分にはこれは無理だと悟ったのだろう、大人しく瀬那と反対側のテーブルに移りスープ用の野
菜を切り始める。ぱんぱん、と瀬那がたねの空気を抜く音と、トントンと規則正しい進が野菜を切る音が
重なり合う。
ほうれん草を切り終えたところで、進は先に火にかけておいた鍋を確認する。(しつこいが勿論ガスのスイ
ッチは瀬那に頼む。二度壊し、三度目はありませんよと脅しをかけられた)コトコトとすでに水の時から入
れておいた根菜類が鍋の中で踊っている。ほうれん草を入れて、調味料を入れひと煮立ちさせてから火を止
めてくれるよう瀬那に頼もうと、進は瀬那の方を振り向いた。しかし、反対側の方でハンバーグの形作りを
していると思われた瀬那は予想外に進のすぐ後ろにいて、突然振り向いた進に驚いていた。
「どうしたんだ、小早川?」
「あ…その……」
言いよどむ瀬那に怪訝な顔をする進。見れば瀬那はハンバーグのたねが入ったボールを大事そうに抱えてい
る。
「何か問題があったのか?」
「じゃなくて…これ」
「?」
たねが入っていたボールを進の方へずいと差し出す。
「し、進さんの分は…僕がちゃんと作っておきましたから……」
「あぁ。すまないな」
ちらりとさっきまで瀬那がいたテーブルの方に目をやれば、確かにきれいに楕円型に整えられたたねが4つバ
ットに置かれていた。…4つ?確か今晩の分と明日のお弁当の分も一緒につくっちゃいましょうと瀬那が提案
して、進が二つずつ、瀬那が一つずつの計算で6つにたねを分けたはずだと進は瀬那に視線を戻す。何故か瀬
那の顔は赤くなり、そしてよくみればボールの中にはまだたねが残っていた。ちょうど二つ分の。
「小早川?」
「その…ぼ、僕の分はやっぱり…し、進さんに作ってもらいたいなぁ…なんて………」
ようするに自分の分は進に作ってもらいたい、とわざわざたねを持ってきたのである。恋人のいじらしい行動
に進は目を細めると、手で頭をくしゃりと撫でたい衝動に駆られた。しかし今は野菜を切ったりなんだりで汚
れている手を使う訳にはいかない。だから、少し腰を屈め瀬那の目元にそっとキスを落とした。
「っ///…し、進さんっ…!」
「お前は本当に可愛いことを言う」
小早川のために精一杯の力を出そう、と進は瀬那からボールをもらう。すぐ後に、だから力を出したらダメな
んですってば、と瀬那から突っ込みが入ったのは言うまでもない。
30分後。居間のテーブルにはきれいな楕円型をして良い焼け目のついたハンバーグが二個と添えつけの野菜、
スープ、ご飯が進の前に。瀬那の前にも同じように料理が並んでいた。
一つだけ違うのは、少しいびつな平べったい形のハンバーグが一つだけ、瀬那の皿に盛られていることぐらい。
おまけ(18禁)
*ごんぞうさまコメント*
口べたゆえ、本当に伝えたい事は物凄くストレートに進さんは言ってくると思うので…。
そんな進さんに瀬那くんはたじたじになっていればいいと思います。。お粗末さまでした!
頂き物部屋
ふたりでハンバーグを作っている姿がとてもほほえましいですv
自分の分は進さんにつくってほしいとおねがいするセナ、かわいい!!
目元にちゅっとする進さん。朴念仁のくせに生意気なかっこよさです(笑)
18歳以上の方は裏もお楽しみいただけますvv
ひとつぶで二度おいしい、すてきな進セナ小説をありがとうございました!
|