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ピンポーン…
広い家の中に来客を告げるチャイムが鳴り響いた。
「げ…もう来ちまった!」
早く逢いたかったが、今はもう少し後に来てほしかった気がする。
部屋の片付けに必死になっていた啓介が階段を駆け下りると、リビングからは「走らないでちょうだい!」という母親の悲鳴に近い声が上がる。
啓介は、そんな声は軽く無視して裸足のまま降り、玄関のドアを開けると、恋人である藤原拓海が「こんにちは、啓介さん」と言って柔らかく微笑んだ。
「……(くら…)……」
この笑顔にはいつもやられている。
どうかしたんですか?と首を傾げる拓海に、啓介は眩暈さえ覚えた。
拓海が下に視線を向けると、啓介の裸足の足が目に入った。
「…あ!!また裸足で降りてる!何回言ったら分かるんですか!」
もう!と言って、拓海は啓介の腕を叩き、早く上に上がれと言うように背中を押すと、リビングのドアからはこの家の最高権力者である小柄な女性が現れた。
「いらっしゃい、拓海君。寒かったでしょ?そんな大きい動物は放っておいて早くこっちいらっしゃい」
「あ、はい。お邪魔します」
「どうぞー」
「…おっきい動物って、オレ?」
仲良く並んでリビングに入っていく2人を追いかけて、啓介もリビングに入っていく。
拓海はソファに座らされ、お茶の仕度に向かったゴッドマザーを追いかけようとして「拓海君は座ってて」と止められている。
語尾にハートマークが見えた気がした。
啓介は拓海の横に座りながら、キッチンにいる母親の様子を伺い、素早く拓海の唇に触れるだけのキスをした。
「…ち、ちょっと!…」
小声で啓介を非難した拓海の肩に、啓介は腕を回す。
「平気だって。向こう向いてたもんよ」
「だからってっ…ん…」
「だってよー。ご無沙汰なんだもんよー。拓海が欠乏してんのよ、オレは。…いってぇっ!」
脇腹にドスッ!とエルボーを喰らい、啓介は身を縮めて「く〜…」と唸った。
「なんだよぉー」と言って拓海を見上げる啓介の目には涙が浮かんでいるので、本気で痛かったらしい。
「『なんだよー』じゃない!この動物め!」
拳固を見せる拓海の顔と、首と、耳は真っ赤になっていた。
拓海の拳固の手首を掴んで、再び母親にチラリ…と視線を向けた啓介は、少し困った顔をしている拓海の唇に口付ける。
ちゅ…
久しぶりに逢ったのに、自分の母親とばかりコミュニケーションを取っている拓海に、啓介は嫉妬したらしい。
スキンシップを求めてくる啓介に溜息を吐きながら、拓海はゆっくり離れていく啓介の唇を見つめた。
「ごっそさん」
「…………」
拓海は啓介の腕をギュっと抓った。
「はい、拓海君。どうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
拓海は焼き菓子をつまんで、入れたての紅茶に唇をつけた。
「どっちも美味しいです」
「そう?よかったわv」
母親は今日は朝からご機嫌で、昼過ぎにやってくる拓海のために何か焼いたり、お茶の仕度をしたりしていた。
前に拓海が家に来た時に話をしてから、母親は拓海のことが気に入ったらしく、週末のたびに「今日は遊びに来ないの?」と啓介に聞いてくる。
「今日は泊まっていけるのよね?拓海君」
「あ、はい。オヤジにもちゃんと言ってきたんで」
「拓海君は毎日おうちのお手伝いして偉いはねぇ」
母親の記憶があまりないくらい前に、目の前にいる自分のお気に入りのこの子の母親は亡くなったのだと聞いた。
いい子、いい子と、頭を撫でられ、拓海の顔は少し赤くなる。
「(…お母さんって、…いいな…)」
拓海は、たまに啓介が羨ましいと思う。
優しいお父さんとお母さんと、頼もしいお兄さんもいる。
自分は一人っ子だし、母親も早くに亡くなっているため、家の中が賑やかになることはほとんどないが、ここはこの人(母親)のせいでいつも賑やかだった。
「今日はみんな夕飯までには帰ってくるのよ。『帰ってこい』って言ったんだけどね」
そう言って大きな声で笑う人は、小柄なのにパワフルなお母さんだった。
あの高橋涼介と高橋啓介のお母さんだから、逢う前はどんな美女だろうかと思って緊張していたが、逢ってみると自分より背の低い可愛いお母さんだった。
下手したら自分より大きい人かと思っていただけに最初はビックリしたが、「いらっしゃい」と優しく微笑んだその人に、拓海は懐かしい「お母さん」を思い出していた。
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頂き物部屋
うはーvv
まーくんからお誕生日プレゼントにらぶらぶ啓拓を頂きましたv
コメントは最終話にて。
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