6.5cmの恋人

1

 


朝、違和感に目が覚めた。

人肌でほどよく温まった、糊のきいたシーツ。それはまあいいのだが、顔と同じくらいの高さの皺がやたらと邪魔だった。おまけに昨日に比べてベッドが広すぎる気がする。いつもはちょっと腕を伸ばしただけでベッドからはみ出てしまうはずが、どんなに伸ばしてもベッドの縁に触らない。ぬくい毛布は相変わらず啓介の手足を包んだままだ。それは歓迎すべきことかもしれないが、嫌な予感がして素直に喜べない。

(そうだ、拓海はっ)

昨夜(というかもう今日だったが)腕に抱いて寝たはずの恋人を探してしばらくシーツの中を泳いでいると。

「わぷっ」

ほんのり暖かい、弾力のある壁にぶつかった。
しっとりとしたきめの細かい手触りの、肌色の壁・・・というか人の身体だ。

「う・・・ん」

遠くのほうでなにやら声がしたかとおもうと、目の前の壁が大きく動いて啓介をおしつぶさんとばかりに覆いかぶさってきた。

「うわあああっ」

下敷きになったら死ぬ。
状況がわからないながら本能的に危険を感じ取った啓介は、迫りくる壁から逃れようと必死に駆け出した。

 

 

 

 

「・・・たく」

朝っぱらからとんだ大汗をかいてしまった・・・。

下は弾力のある布団とはいえ、もう少しで殺されるところだった。夢なら早く覚めて欲しいが、現状でまずすべきことは目の前で眠っている巨人・・・もとい拓海を起こすことだ。今の啓介の身長より高い腕をよじ登って顔までたどり着くのはちょっとした労働だが、幸い拓海はさっきの寝返りで枕に顔を埋めるようにして眠っている。啓介は顔のほうへまわりこみ、唇の端あたりをぴたぴたと叩いた。

「拓海、おい拓海ッ!起きろって」

叩いたりゆすったり、しまいにはつねったりもしてみたが、昨夜ずっと啓介につきあわされた拓海の眠りは深い。それでも顔のあたりに違和感は感じたのか、それまで熟睡していた拓海の眉が不快げに寄った。うるさい虫がたかっているとでもおもったのか、無意識に上げられた手は啓介の頭上に不吉な風をおこした。

「うわっ・・・やめろーっ!」

パチンッ!!
自分で自分の頬を叩いた拓海は、その刺激でぱちりと目を開けた。

 

 

薄墨色の瞳はしばらくぼうっと目の前の小さな生き物を眺めていた。

「拓海・・・?」

仮にも恋人がこんなサイズになっていたら、もうすこし驚くとかないんだろうか。
あまりの無反応ぶりに、自分が見えていないのかと目の前で手を振れば、大きな手が伸びてきて、むずと啓介を掴んだ。

「おいこらッ・・・!」

無造作に引き上げられて、啓介は手足をばたつかせた。とはいっても首から下はすっぽりと拓海の手のひらに握りこまれてしまっている。一気に10メートルくらいの高さ(注・今の啓介の感覚で)に持ち上げられて、啓介は焦った。別に高所恐怖症ではないが、この高さから落ちたら怪我ではすまない気がする。

「拓海!いつまでも寝ぼけてんな!万が一にもここから落しやがったら後で腰が立たなくなるまで犯ってやるかんな!・・・ぐえっ」

言うなり背骨が折れるほど締め上げられ、啓介は苦悶の声を上げた。
普段からおとなしげな外見に似ず強気なところもあるのは知っているが、今の拓海は文字通り啓介の命を手中に握っている。拓海の手中に握られた啓介が遅まきながらそのことに思い至り、青ざめていると、

「・・・啓介さん?」

どうやら本格的に目が覚めたらしい拓海が、不思議そうに啓介を見つめ、ぱちぱちと瞬きした。

 

 

「一体どうしちゃったんですか?こんなにちっちゃくなっちゃうなんて」
「知るかっ、目ぇ覚めたらこの状態だったんだよ」
「はぁ・・・」

逆切れ状態の啓介に対し、拓海はあくまで緊張感がない。起き上がった状態のままぼーっと手のひらの中の啓介を眺めている。昨夜まで啓介の腕の中にいた拓海は当然生まれたままの姿で。同じ男とは思えないきめの細かい肌には、昨夜啓介がつけた所有の証がそこここに散っている。おまけにやさしく握りこまれた指先はほんのりあたたかく、拓海は気づいていないのだろうが、啓介のあらぬところまで刺激していて。たとえ小指のサイズになろうとも、若い身体はみるみる反応する。

身体のサイズに比例して、当然、啓介のソコもそれなりのサイズになってしまったわけだが、素っ裸の啓介を
握りこんでいた拓海は気づいたらしい。こんな非常事態でもサカれる啓介に拓海は呆れた。

「元気ですねぇ」
「男なんだから仕方ねーだろ・・・って、何するんだ・・・ッ」

じたばたと暴れる啓介を親指の腹でかるく押さえつけ、小さいながらも硬くなっている中心を、拓海は
反対のひとさし指でくりくりと刺激しはじめた。

「はっ・・・や、めろって・・・」

声を上げそうになるのを必死にかみ殺す啓介に刺激を与えながら、拓海は興味深そうに上から眺めている。

「へぇ、小さくてもちゃんと感じるんですねぇ」
「拓海・・・てめー後で覚えてろよ・・・ッ」

まるきりおもちゃの精度を確かめているかのような拓海の指先に、啓介は歯軋りしながら白濁を吐き出した。

 

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