新年

 

 

5

 

 

「・・・・」
「・・・・」

なんとも気まずい空気が、広い部屋に漂いました。
史裕に連れてこられたものの、拓海は何を話したらいいのかわかりません。
しかしシーツにくるまった背中は明らかに拓海が話すのを待っている様子でした。

「あの・・・」

十分すぎる間をおいて、拓海がとうとう口を開きました。

「お腹、すかないんですか?」
「・・・・久々に会って言う言葉がそれかよ」

シーツの山がごそごそと動き、やっと啓介の顔が現れました。
眠るときはいつもそうですが、やはりシーツの下は生まれたままの格好です。

「何で戻ってきたんだよ。ここが嫌で出て行ったんだろ?」

ぷいと横をむいてはき捨てる啓介に、拓海の眉がわずかに寄りました。

「啓介さんが出て行けって言ったんですよ?それに嫌で出て行ったわけじゃないです」

そういってしまってから、拓海は一瞬口をつぐみ、あわてて付け加えました。

「啓介さんが毎晩あんまりしつこくしないで、あと変なプレイもしないで、好きなときに家に帰らせてくれればですけど!」

啓介の目が、まっすぐに拓海の目を捉えました。

「オレのことは?嫌いじゃないのか」
「嫌いじゃない、です」

促されて出てくる言葉に自分で驚きながら、拓海の顔はみるみる赤くなりました。
なんだか自分がとても恥ずかしい告白をしているような気がしたのです。
わがままで、子供で、えっちで、気分屋で、好き嫌いが多くて、ブラコンで。
啓介の欠点などいくらでも思い浮かびましたが、なぜか嫌いという気持ちにはなりませんでした。

「なら、こっちに来いよ」

当然のように命じる啓介に、拓海はふらふらと近づいていきました。

 

 

それから十分とたたないうちに、室内から悩ましい声と荒い息遣いが聞こえ始めました。

「あっ・・・あんっ・・・・あんっ・・・あんっ」

ざらざらした舌で前も後ろも舐め上げられ、若い拓海は何度も達してしまいます。
いつになく感度のよい拓海に啓介も、久しぶりとあってかなり時間をかけて拓海の身体を堪能します。
やがて鍛え抜かれた身体が覆いかぶさってきて、その固い肩に顔をうずめた瞬間、

(あっ)

拓海は顔を上げようとしましたが、啓介の強靭な両腕に阻まれて、そのまま快楽の波へと押し流されていきました。

 

 

「・・・あんた、家の近くの山で俺の事襲いましたね?」

いつのまにか夜もとっくに更け、腹へったな〜と呑気に寝そべる啓介に、拓海は低い声で問いかけました。
その瞬間、ぴくりと頭が動いたくせに、

「なんのことだ?」

ととぼける啓介の左上腕を、拓海は怖い顔で掴み上げました。
そこには痛々しい、引っかき傷の痕が、ところどころかさぶたとなって残っていました。

「へっ、せっかく外でやるチャンスとおもったら、おまえ山猫みてーにめちゃくちゃ暴れるんだもんよー」

ばれた瞬間に居直る啓介に、拓海は拳を振り上げました。

「バカ!どんなに怖い思いしたとおもってるんですか!俺、知らない奴にやられるって思って・・・!」

拳をつかまれてもなお身をよじって、ぼろぼろと涙をこぼす拓海を抱きしめて、啓介は自分のしたことを後悔しました。

「・・・悪かった。ごめんな」
「あんたなんか・・・っ」

皆まで言わせず唇をふさぎ、とめどなくこぼれる涙がとまるまで吸い取ると顔じゅうにキスの雨をふらせました。

「嫌いなんていうなよ・・・」

ふたたび身体に手を這わせながらつぶやく啓介に、拓海はずるい、とおもいました。

 

 

こうして拓海は再び王宮で暮らすことになりました。
ただし、一週間はほとんどベッドから出られませんでした。
その上、帰ってきてから丸一日以上もの間は食事もとらずにがんばっていたので、
拓海が献上した作りたての豆腐も、2人の口には入りませんでした。
拓海が連れ帰った馬も、拓海の馬として厩舎に入れられましたが、
その馬に乗って啓介と遠乗りに出かけることも、まだ当分先のことになるでしょう。
しかし拓海が持ち帰ってきたお話は啓介を大いに喜ばせ、
また拓海にとっては新たなやっかいごとの種となるのでした。
しかしそれはまた、別のお話。

 

おわり

4

小説部屋