熱に浮かされた拓海の思考を現実にもどしたのは、こげた匂いだった。
「やべっ、魚・・・!」
先刻までとはうってかわった邪険な動作で啓介を押しのけると、 拓海は乱された衣服もそのままキッチンへ走った。 グリルをあけると、干物は頭と尾からそれぞれ三分の一ほどが炭になっている。
「・・・けいすけさん・・・」 「だって、おまえがエプロン姿で起こしにくるからよー・・・」
「だって」じゃない。 拓海は拳を震わせたが、何も言わないうちに叱られた犬のようにこちらを見ている啓介に、 それ以上何も言えなくなった。
そうやって甘やかすからいけないとはわかってはいるものの、こちらも心を鬼にしきれないほど 惚れているのだから仕方ない。
「・・・一品減っちゃいましたけど。まず顔洗って来てください」
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