スローステップ
14
月の明るい夜だった。 「話があって来たのだろう・・・それに、俺もお前に話がある」 振り向きもせずに先に立って歩き出す進に、セナは早足でついていく。 「まずお前の話から聞こう。なぜ王城に来た」 セナはごくりと唾を飲み込むと、まっすぐに進の目を見て言った。 「進さんに会いたかったからです」 進は動かない。セナの話を全て聞くつもりでいるらしかった。 「あの、僕は進さんの気持ちとか僕の気持ちとかぜんぜんわからなくて、進さんがどういうつもりであの・・・キ・・・スとかしてきたかもわからないし、なんで朝一緒に走れなくなったのかもわからなくて・・・でも、進さんとこのまま会えないのは嫌なんです」 話しているうちにだんだん目線が下にそれて、最後には「あ・・・でも進さんの都合もありますよね・・・すみません・・・」と自信なく語尾を小さくしたセナの小さな頭を、進はわずかに目を細めて見下ろしている。 「お前の話はそれだけか?」 頭上からかけられた言葉にセナはぴくんと肩を震わせて、はい、と下を向いたままうなずいた。 「ならば俺の話を聞いてくれ、小早川セナ」 何か悪いことを言われると思っているセナは、頑なに進を見上げようとはしない。 「おまえが好きだ」 地面を見つめていた大きな目がさらに大きく見開かれた。おそるおそる顔をあげると、そこには真剣な顔でセナをみつめる進の顔があった。 「おまえが俺の最大の好敵手であることは変わらない。だが今は、友人の枠を超えた気持ちをお前に対して抱いている。個人的に会わないと言ったのは、お前といると、この前のように触れたいと思ってしまうからだ」 だから、もしこの間のことが嫌だったのなら、もう俺には近づかないほうがいい。 「あの・・・僕は、」 再びごくりと唾を飲み込み、視線をさ迷わせた。 「この間のキスは、嫌じゃなかったですけど・・・次はどうかよくわからないので・・・えっと、もう一度・・・」 もう一度? (ひぃーっ、何言ってるの僕!!) 進を見上げれば、呆然とした顔でセナを見つめている。 「ぐふっ!」 ほとんど条件反射の、容赦のないタックルをかまされて、セナは進の胸へと抱きこまれた。 「げほげほっ」 逃げないでくれと、身体を返される。タックルを繰り出した大きな無骨な手が、今度は優しくセナの頬に触れる。 「小早川」 至近距離で名前を呼ばれて、セナは背中を震わせた。進のこんな声を、今まで聞いたことがなかった。 「・・・キスしてもいいか?」 唇に息がかかるほど近くで、心地よい低音でそう聞かれて、セナは跳ね上がる心臓の音を聞きながら、小さく頷いて目を閉じた。
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