秋祭り
1
氷の風の王子ジルはノーム王家の血縁ニィルと、 炎の風の王子エアはノームの王子のトォルと、それぞれ恋人同士になったが、 ずっと一緒に育ってきた二人の王子は、トォルやニィルがやきもきするほど、熱々でラブラブな関係だった。 ある日突然、花の王子フルールがジルの婚約者としてあらわれ、つれないジルに惚れ薬を使ってしまった。 目覚めた時に運悪く関係者全員を目にしてしまい、「全員僕の嫁」とばかりに全員を口説きまくるジルを解毒するために、 全員がフルールの国である花の国に招かれることになった。 めでたくジルは正気に戻り、恋人のニィルとの関係は、ますます深まったのだが。
「きみを抱きしめるこの心地よさをなくしたくはないけど、やはりそろそろ、僕たちには独り立ちが必要な時期なのかな?」 「だな」 バラの花が浮かぶ、花の国の温泉にあるシャワーブースで、二人でこもって交わした会話。 去り際にされた、腰が立たなくなるほどのキスは、とろけるほど甘く痺れて、泣き出したくなるくらい切なかった。 乱心が治ってから、ジルはほとんど恋人のニィルにしか愛を囁かなくなった。 弟の自分のことも構ってはくれたけれど、 以前は自分が独り占めしていたジルの隣に、愛らしいノーム(地霊)が座り、 兄の愛情を一心に受けているのを見るのはつらい。 そして、兄を見つめている自分を見て、トォルが悲しむのも嫌だった。 トォルのことだって、ちゃんと好きだ。 だから、行き場のないこの想いと決別する決心をした。 もうジルを目で追うことはしない。 極力触れることもしない。 いつものように背後から抱きしめようとしてきたジルを拒んで、別れを告げた。 ジルは驚き、悲しそうな顔をしたが、エアの決心が固いとわかると、 「きみがそうしたいなら」 とそう言った。 エアは夕食も食べずに、礼拝堂の地下の隠し部屋にこもって、一人で泣いた。
|
||