秋祭り
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秋祭りのダンスパーティは、学内の大広間で行われた。 大理石の床に敷かれた赤い絨毯。高い天井にきらめくシャンデリア。 楽士達の演奏に合わせて踊る生徒や先生たちは皆きらびやかに着飾っていて、どこかの王宮の舞踏会を思わせた。 リードの仕方を教わったエアは、トォルと何曲か踊った。 仕立て屋の手袋を使ってトォルが作った、おそろいの「王子様の衣装」を着てエアと踊ることができて、 トォルはすごく満足して、幸せな気分だった。 だから、ニィルとおそろいの王子様姿のジルがやってきて、「ちょっと弟を借りてもいいかな?」お願いした時、快く応じたのだった。
しばらく後、二人は学園内の使われていない小部屋に来ていた。 「トォルともその姿で踊ってあげたらよかったのに」 「絶対嫌だ!」 エアは今や王子様ではなく、お姫様になっていた。 レースやフリルがたくさんついた、かわいいけれども大人っぽさも兼ね備えた、淡いピンクのボールドレス。 ジルは自分が見立てたそれを、ぜひエアに着て踊って欲しいとねだったのだ。 当然エアは嫌がったが、湖の古城でエアが着せられていたドレス姿があまりにもかわいらしかったから、 ダンスを教える代わりにぜひもう一度見たいと熱くせがまれ、じゃあ誰も見ていないところでなら、 としぶしぶ承諾したのだ。 実際、ドレスはエアの髪の色や雰囲気によく合っていて、胸パッドのついたそれを着ていると、 どうみても美しいお姫様にしか見えなかった。 「お手をどうぞ」 王子様が優雅に一礼し、エアに手を差し出す。 エアは憮然としながらも、その手を取った。 舞踏会の音楽は、この小部屋まで聞こえている。二人は音楽に合わせて踊りだした。 動く度にひらひらとする、ボリュームたっぷりのドレスは邪魔で仕方がなかったが、 慣れ親しんだリードに身を任せているうちに、気にならなくなった。 ジルと一緒にいられる、至福の時。夢でも思い出でもなく、自分たちはまたこうして触れ合って、 好きなだけ見つめ合っていられるのだ。 ミントキャンディ色の瞳が、ひたむきに自分を見つめる夕暮れ色の瞳を、愛おしげに見つめ返す。 「きれいだよ、僕だけのエア」 ジルはそう言って、踊りながらエアの唇に自分の唇を重ねた。
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