アムネジア

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「なあ…明日帰るのか…?」

互いのスピリットを交換したせいで肌寒く感じる身体を、逆に温まったジルの身体に摺り寄せながら、

エアはたずねた。

「帰りたい?」

ピンクの髪を優しく撫でながら問い返す兄の言葉に、エアはうつむいた。

本当は、ジルとこのままずっとこうしていたい。

自分にもジルにも、待っている恋人がいるけれど。

答えられずにいると、ジルの手が、撫でていた頭を、ため息と共にそっと抱き寄せた。

「もう少し、ここでゆっくりしていこう。

もっと、どろどろに溶けるくらいに愛し合って、

きみが二度と、僕を忘れたいなんて思わないように」

「ジル…」

顔を上げたエアの唇を、ジルはそっと唇で塞いだ。

「初めて結ばれた日に、僕がきみに言った言葉を覚えてる?」

額をこつりと突き合わせて言われて、エアは瞳を揺らした。

最愛のジルの言葉を、忘れるはずがない。でもそれは。

エアの動揺した表情に、ジルはクスリと笑って、僕は嘘は言わないよ、と言った。

たとえ僕たちに恋人がいても、この先だれかと結婚しても。

「二人はずっと一緒だよ。たとえこの世界が壊れて、僕たちが星のかけらになっても」

この世のどんな宝石よりも大切な、誓いの言葉。

エアは、かつてのようにうなずくと、あふれる涙をごまかすように、ジルの首に腕を巻きつけて口づけた。




「あーあ、すっかり元に戻っちまったな…」

食堂でまたもや恋人そっちのけで手を絡め合い、二人の世界をつくっている双子を半眼でながめながら、

トォルが言った。

「ほんっと、どうにかしてほしいよね。

でも、あのままじゃフェアラルカどころか、アヴァロン島ごと凍らせちゃいそうだったし」

ニィルがにっこりと笑いながら、ケーキにブスリとフォークを突き立てている。

「エアもなんかエアらしくなかったしな。あの二人がああなのは、もうあきらめるしかないのかも」

ため息をつく二人のノームの目の前で、仲の良いシルフの双子は、啄むようなキスを繰り返していた。


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原作ではこうならなかったかもしれませんが、二人はずっと一緒だといいな!と夢見てみました。
跡継ぎのジルは時期が来ればふつーに結婚しそうな気がします…。


妖精部屋