アムネジア

11




「信じらんねえ…」

部屋に戻るなり、こちらに背を向けてベッドで丸くなった弟のそばに腰を下ろすと、

ジルは光沢のあるピンクの髪を、宥めるように撫でた。

「まだ怒っているのかい?僕のかわいいプティ・ラパン(仔ウサギ)」

拗ねている身体を抱きしめるように覆いかぶさる。

ウォーターブルーの髪がピンクの髪にまざり、艶のある低音が頑なな態度を咎めた。

「いつもより、感じてたくせに」

途端に、腕の中の身体がびくっと震え、もともと耳の先が赤くなっていたのが、

みるみる首筋まで真っ赤に染まった。

熱を帯びた耳朶をついばみ、耳たぶに歯を立ながら、意地悪な言葉で追い打ちをかける。

「繋がっているところをフルールたちに見られて、興奮していただろう?

それにミントの喘ぎ声を聞く度に、痛いほど締め付けていたしね」

「もう…やめろって…」

ジルが覆いかぶさっているためにエアはこちらに背を向けて身動きも取れない体勢のまま、

消え入りそうな声で懇願した。

羞恥にこれ以上ないほど赤く染まった顔を、両手で覆って隠そうとしたが、

ジルはそれを許さず、両手首を掴んでシーツに縫い留め、逃れようとする唇を追いかけて唇で塞いだ。

「んんっ…」

逃げ惑う舌の根元を舐めてやると、エアは身体を震わせておとなしくなった。

歯列をなぞり、口蓋を舐め、頬の裏側の柔らかい粘膜の感触を堪能し、舌を絡めて蜜を吸った。

「僕が欲しい?」

濡れた唇をちゅっと吸って問えば、とろんとした夕暮れ色の瞳がジルをぼんやりと見上げる。

「欲しい…」

欲情に掠れた声で、期待通りの答えを返す弟に、ジルは愛おしげに目を細めた。

「好きなだけあげるよ、僕のかわいいエアリエル」

そうして二人は、今日何度目かわからない行為に夢中になった。

何度も出しているのに、そこを手で、唇で触れられれば、みるみる反応してしまう。

己の心と身体の貪欲さに呆れ、相手の反応の良さに愛しさが募る。

身体じゅうに散る花びらのような痕は、すべてエアが感じる部分につけたものだ。

自分がつけた所有の証をひとつひとつ確かめるように辿り、

その度にエアが甘い声を上げて身体を震わせるのを愉しんだ後、

すでに挿入を期待してひくついている秘所に指を差し入れた。

「あっ…ぁんっ…」

エアは頬を薔薇色に染めて、恥ずかしそうにしながらも、指を奥まで誘い込むように自ら腰を揺らめかせる。

ここに来てから何度となく繋がったせいで、

いつもは頑なな蕾が、今はオイルを必要としないくらいにほころんでいる。

やわらかく指を包み込んで締めつけるそこを三本の指で探っていると、エアが切なげにジルの名を呼び、

涙をいっぱいに溜めた夕暮れ色の瞳で、もう欲しい、と訴えた。

ジルは指を引き抜き、物欲しげな顔をする弟に、涼しげに微笑んだ。

「おねだりの仕方は、教えただろう?」

突き放すような兄の言葉に、エアはうろたえたように視線をさまよわせた。だがこのままでは入れてもらえない。

早く欲しいと訴える身体の疼きをこらえられず、エアは力が入らない身体を叱咤して獣の姿勢になり、

尻を突き出すように高く掲げると、震える両手の親指で入り口を開いて、ジルに見せた。

「ジル…ここに、いれて。きみの…」

ぎゅっと目をつぶり、首まで真っ赤に染めながら、エアは恥ずかしい言葉を口にする。

「えっちだね、エア。そんないやらしいお願いをするなんて」

そうするように仕向けた張本人は、そう言ってエアをなぶり、ちゃんとできたご褒美のキスと共に、

燃えるように熱く滾ったそれを、挿入を待ち望んでいる入り口に潜り込ませた。

「あんっ…あぁんっ…!」

挿入されただけで達きそうになるのを何とかこらえながら、エアは背中をしならせて喘いだ。

浮き出た腰骨を両手で掴んで、奥を突きはじめる。

狭い肉洞を押し広げるように擦り立て、エアの弱い部分を先端で執拗に刺激した。

「どこが気持ちいいか言ってごらん、エア」

「あっ…ぁんっ…!」

「言わないとやめてしまうよ?気持ちいいのはどこ?」

「あっ…」

エアは喉を震わせながら、感じている場所を口にした。

「そう。エアはそこが感じるんだね。ちゃんと言えたご褒美に、奥にいっぱい出してあげるからね」

かわいそうなくらいに熱く火照った頬に口づけながら、

ジルは硬く尖った乳首をきつくつまみ、腰をますます深く激しく突き入れた。

「あっ…あんっ…ジルッ…」

「っ…エアッ…」

ジルは苦しげな声でエアの名を呼びながら、奥に欲望の証を注ぎ込み、

エアは内部にジルのスピリットが広がるのを感じながら、シーツに己の欲望を吐き出した。