とりかえっこ




その日、フェアラルカ高等部の生徒たちは、世にも珍しい光景を目のあたりにした。

制服の胸元をはだけさせたクラス委員長は、クラスメイトの挨拶にもああ、と答えるだけで、にこりともしない。

一方、自分からにこやかにあいさつをしながら教室に入ってきた炎の風のシルフは、

教室の窓を開けて風を入れたり、黒板の下にチョークがそろっているかを点検したりしている。

「この身体は熱いね。エアが胸元を開けたがる気持ちがわかるよ」などといいながら、きちんと上まで制服のボタンをとめていた。

「エア」がニィルと、「ジル」がトォルと、それぞれ一緒にいるのも奇妙な光景だったが、

何よりも違和感を覚えるのは、やはり双子それぞれがもつ雰囲気だった。

「ジル」は誰もオレに話しかけるなと言わんばかりのオーラを放ちながらも、

アクアブルーの髪を時折気だるげにかきあげては、無自覚に色気を振りまいている。

「エア」はクラス委員長の仕事をそつなくこなしながら、皆にさわやかな笑顔で受け答えしている。

二人の変わりように他の生徒たちは最初こそは困惑していたものの、「エア」がうまく立ち回ったおかげで、

大きな支障はなく一日を過ごせそうだった。

――トォルとニィル以外は、双子のどちらに話しかけたらいいのか、わからない様子だったが。




「ったく、何かっつーとオレを呼びやがって」

「クラス委員長なんだから仕方ないだろう。それより、僕の姿で居眠りするのはやめてくれ」

午後のティーブレイクで、ミルクティを飲みながら文句を言う「ジル」を、「エア」がたしなめる。

居眠りなんかさせなかったくせに、と「ジル」は恨めしげに「エア」を睨んだ。

今日の兄はいつになく手厳しかった。「ジル」がちょっとうとうとしかければ、

手に赤い痕が残るほどつねりあげられた。

「けど、これからどうすんだよ?もとに戻る方法とか、心当たりあんのか?」

授業中につねられた手の甲をさする「ジル」の横で、昆布茶をすすっていたトォルが尋ねる。

「心当たりは一応あるよ」

代わりに答えた「エア」に、「ジル」までもが、えっと目を見開く。

「本当か兄貴」

「100パーセント戻れるかどうかはわからないけれど。こうなる前にしたことと同じことを繰り返せば、

もとに戻れるんじゃないかな」

涼しげな表情で微笑む「エア」の言葉に、「ジル」はあっと、声を上げ――そして白い頬を染めた。

「こうなる前って、お前ら何したんだよ?」

無邪気なトォルの問いに「ジル」はぎくりと身体を揺らし、「エア」は、

「別に特別なことはしてないよ」

と言って、トォルの問いを、ニィルの刺すような視線と共に、さらりと受け流したのだった。





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妖精部屋