とりかえっこ
2
混乱の嵐は次に、部屋を訪れたトォルとニィルを襲った。 「やあ、僕のかわいい駒鳥。君がいない間寂しくて凍えそうだったよ。 その愛らしい唇におかえりのキスをしてもいい?」 赤いシャツのボタンを珍しく上まできちんと止めた、ピンクの髪のシルフは、 ニィルを見るなりそう言って、返事を待たずにキスをした。 その光景にショックを受けたトォルは、蜂蜜色の髪をがしっと掴まれた。 「で、今日の戦利品は何だったんだ?ああ?」 思いがけない乱暴な行為に、トォルがおそるおそる見上げると、 こちらも珍しく襟元をはだけさせている、アクアブルーの髪のシルフが不愛想に見下ろしていた。 姿はジルなのに、とてもジルとは思えないぶっきらぼうな言動。 二人のノームは、戸惑ったように顔を見合わせ、そして様子のおかしい双子のシルフを見比べた。
「はぁぁ?中身が入れ替わったあぁ?」 とりあえず、ジルとニィルの部屋に集まって、主にジルが事情を説明した。 「何で突然、こんなことになっちゃったの?」 ニィルの疑問ももっともである。 だがまさか、セックスしていて入れ替わったなどとはさすがに言えない。 「ジル」が言葉につまっていると、「エア」が代わりに涼しい表情で答えた。 「さあ、僕たちにもわからないけれど。双子だから、こんなこともあるんじゃないかな」 何の答えにもなっていなかったが、落ち着いた口調でそう言われると、妙な説得力がある気がした。 感心する「ジル」とトォルを余所に、なぜかニィルだけは一瞬鋭い目で双子を睨んだ。 「そういうわけで、オレ達元に戻るまではこの身体だから、よろしくな」 「ジル」は話を切り上げるようにそう言うと、トォルの腕を掴んで自分たちの部屋に引き上げていった。
「ジル」に抱きしめられてキスされることに、トォルは最初、戸惑っていたようだったが、 エアと同じ口調、同じ仕草に、髪や目の色が違うだけだと納得したらしく、身体の強張りを解いていった。 二人はいつものように抱き合ってベッドに潜り込んだ。 氷属性のジルの身体で裸になるのは寒いらしく、エアにしては珍しくパジャマを着ている。 「でも意外に身体、冷たくねーのな。やっぱ中身はエアだからか?」 パジャマ越しに感じる「ジル」の身体は、ほんのりと暖かい。 「ん?ああ…」 蜂蜜色の跳ねっ毛を撫でながら、「ジル」は言葉を濁した。 普段の自分の身体と比べれば、ジルの身体は十分に肌寒いが、 それでも今、比較的身体が温まっているのは、体液を交換したせいで、この身体の中に自分の―― つまり炎属性のスピリットが宿っているせいだ。 だがそんなことを恋人のトォルに言えるはずもなく。 「ジル」はただ、まあな、と答えて、トォルにおやすみのキスをしたのだった。
|
||