9月24日
襲名式の翌日。 やや短くなった日が落ちて、夜の姿に変化すると、 リクオは黒羽二重の羽織袴に再び身を包み、昨夜襲名式を執り行った大広間に向かった。 学校から帰ると、つららが鴆からの言伝(ことづて)を告げたのだ。 夜になったら、正装で大広間に来て欲しいと。 広間に行くと、同じく黒紋付袴に身を包んだ鴆が待っていた。 上座にリクオが座ると、鴆は畳に拳を付け、深々と礼をした。 「リクオ様、三代目の襲名、おめでとうございます。 心よりお慶び申し上げると共に、ご挨拶が遅れましたことを、深くお詫び申し上げます。」 言伝を聞いた時から用件は予想していたから、リクオは驚かず、無言で先を促した。 「改めまして、この鴆、 不肖ながらこの毒羽をもって、貴方様にお仕えいたします。 この羽根の最後の一枚までリクオ様の為に使うことを、 たとえ我が肉体衰え、命運つきようとも、 リクオ様のために戦うことを誓います。 どうか末永くお傍に置いてくださいますよう、 よろしくお願い申し上げます」 「ああ」 昨夜の厳粛な空気を残す大広間に、正装で二人。 上座と下座、主君としも下僕(しもべ)が、視線を合わせることなく、相対(あいたい)して座っている。 明け方まで睦みあい、同じ褥で抱き合って眠っていた二人だが、今はどちらも、甘い情事の余韻は微塵も感じられない。 ぴんと張りつめた沈黙の中、目線を交えぬ二人は、言葉にしない想いを確かに感じていた。 「生きろよ、鴆。生きてオレの為に働け」 盃を交わした時の言葉を、リクオは思い出させるように繰り返した。 短命である己に生きろと。生きてずっと傍にいろと。 言葉は少なくとも、それに込められた想いの丈は、胸が苦しくなるほどに伝わってくる。 「は…」 畳につけた両の拳を堅く握りしめ、鴆は再び深く頭を下げた。
オフの襲名話で鴆におめでとうの一言も言わせなかったので; 忠誠の誓いっていいわね〜と思い、ない頭をしぼって考えた(つってもベースはFF;)んですが、 以前読んだ「七生(しちせい)までお仕えする」には敵いません。 あれにはシビレました…。 |
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