ハロウィン




日が落ちるとさすがに縁側で飲むには肌寒い、そんな十月の末。

夜の姿をしたリクオが、酒ではなく、上品な紫色の風呂敷包みを抱えてやってきた。

「なんだ、肴か?」

「酒には合わねえかもな」

鴆の問いにリクオは口の端をちょっと上げて笑うと、絹の包みをするりと解いた。

丸い透明な蓋と丸い大きな皿。

優雅な手が蓋を取ると、細い紐状の黄色と橙色のクリームがとぐろを巻き、

緑がかった種と幾つかの大きな栗で飾られた洋菓子が現れた。

「昨日うちに来た時、栗の皮を剥くのを手伝ったろ。その礼だってさ」

「ああ…」

昨日は本家の置き薬の点検と補充に行ったのだが、

どうせならリクオが学校から帰ってくるのを待ってから帰ろうかと思っていたところに、

若菜が大量に茹でた栗を抱えて廊下を歩いてきたのだ。

手先の器用さには自信がある。

縁側で黙々と剥いているうちにリクオが帰ってきて、

気がつけば話をしながら綺麗に剥いた栗をリクオの口に放りこんでいた。

様子を見に来た若菜はそれを見て笑っていた。

材料を減らしたお咎めはどうやらないらしい。

鴆は礼を言うと、組の者を呼んで酒を持ってこさせるついでにケーキを切り分けさせ、

自分とリクオの分を皿に移して下げさせた。

組員には甘いものを好む妖怪も多い。

きっと今夜のうちになくなってしまうだろう。

若菜が作ったケーキは甘さひかえめで、素材の味がひきたっていて、美味い。

「栗の菓子かと思えば中身はかぼちゃか」

「今日はハロウィンだからな」

リクオの言葉に鴆は首を傾げ、ああ、と相槌を打った。

「毎年、本家で祝っている祭か」

本家では年中宴会をしているから、いちいち何の祭りだか覚えていないが、

この時期にかぼちゃの洋菓子が出る祭は記憶にあった。

「『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ』とか言って、結局菓子もらっても悪戯してたなあ、あんたは」

中身をくり抜いたかぼちゃを頭から被った、小さな大将の悪戯に、有無を言わさず加担させられた覚えが鴆にはある。

まだ手をつけられていないリクオのケーキをフォークで掬って、形のよい口元に持っていくと、

リクオはそれをぱくりと食べて、悪びれずに笑った。

「楽しいことは譲らねえのさ」

きらめく金の瞳、楽しげな口元。

すっかり大人びた表情の中に、昔の悪戯小僧の片鱗が見えた。

今度はリクオが鴆の皿のケーキをフォークで掬い、鴆の口元に差し出した。

鴆がそれを食べると、リクオは満足そうに目を細める。

そうしてお互いにケーキを食べさせあって、最後の一口がリクオの皿からなくなると、

鴆は皿をどけて、愛しい人を抱き寄せた。

「…ケーキをやったのに悪戯する気か?」

抗議するリクオの唇についたクリームを、鴆は舌で舐めとった。

「オレも、楽しいことは譲れねえ性質(たち)なんでね」

それに、オレがあんたに触れるのは悪戯じゃねえしな?

そう言って頬に触れると、リクオは一瞬目を見開き、

それから酒も入っていないのに目元を朱に染めた。

「てめ…」

悔し紛れに睨み上げ、憎まれ口を紡ぎかける唇を、鴆は早々に塞いでしまった。





おわり



だらだら話ですみません;;
そんでもっていつもこんな終わり方;;



孫部屋