空に咲くは花火 ドォォン! 雷のような轟音が、あたりに響いた。 すぐ近くで花火を打ち上げているらしく、半刻ほど前からこの音が続いている。 診療所の後片付けをしながら、鴆はため息をついた。 花火自体は綺麗だと思うが、あいにくここ薬鴆堂からでは、屋敷を覆うようにそびえたつ木のせいで、 ほとんど見ることができない。 見れないとなると、その轟音は診療の邪魔になるだけで。 患者は怯えるし、話は途切れるしで、いいことは一つもなかった。 そろそろリクオが飲みにやってくる時間だが、せっかくの穏やかな時間をこの音に邪魔されるのかと思えばため息も出る。 そんなことを考えていたら、ふいに後ろから腕を掴まれた。 「!!」 リクオ、と呼ぶ声は、またかき消された。 年下の主は何かを言いかけ、聞こえないと悟るとあきらめて、鴆を玄関へと引っ張っていく。 わけもわからず草履を履かされ、外に出ると、そこにはリクオがここに来るときに乗ってくる蛇ニョロが待っていた。
日が落ちても昼間の熱気を残す地上とは違い、上空は風もあってだいぶ涼しかった。 ふもとの公園から、山の高さと同じくらいの高度で打ち上げられている花火は、山の外からだと綺麗に見えた。 鴆は眼下で次々に咲いては闇に散る、大輪の花に見入った。 リクオがくいくいと袖を引き、盃を差し出す。 仕事の後の、花火を見ながらの一杯は喉に沁みた。 しかもそばには、リクオがいる。 リクオ、と呼んだが、やはり花火の音にかき消される。 言葉の代わりに、くちづけを落とした。 リクオが持ってきた酒瓶を取りあげて、彼にも酒を注いでやった。 愛しい背中を抱きしめながら、次々と打ち上げられる花火を共に眺める。 満たされた気分だったが、やはりこの轟音は邪魔だ。 こんなに近くにいるのに話もできないのが、ひどくもどかしかった。
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