星に願うは恋の行方



「おめーがそれほど好事家だったとは知らなかったぜ」

庭に台を置き、その上に水を張った盥(たらい)をのせようとしている鴆の様子を縁側で眺めながら、

リクオは呆れたように言った。

「本家だってお祭り好きだろうが。今日だってどうせ宴会してんだろ?」

「たぶんな」

今日が旧暦の七夕だと知ったら、また宴会の口実が増えるだろう。

「この間は満月で、なんも見えなかっただろうが。

今夜は月もだいぶ傾いてるから、星も天の川もよく見える」

上弦の月は、すでに西の空へ沈みかけている。

雲もないおかげで、この前の七夕の夜よりも、星が明るく見えた。

ひときわ明るく輝く牽牛星と織女星はもとより、妖の目には、その間に流れる天の川まではっきりと見える。

「さあ、星を映したぜ。こっちに来て、願い事をしながらかき混ぜな」

庭に降りてくるように促す下僕に、リクオは億劫そうな顔をした。

「オレはいい。願掛けならおめーがしろよ」

「なら、どんな願いでも叶えてくれるんだな?」

「…オレがやる」

星の光を映してきらりと輝く妖の目に、何やら不穏なものを感じて、リクオは重い腰を上げた。

(つっても、何を願えばいいんだ?)

奴良組の繁栄?人と妖との共存?

七夕で短冊を渡されたときにも悩んだが、それは星に叶えてもらうことではない。

自分と仲間の力で叶えるもの。

(何を望んでもいいのなら)

自分たちの意志だけではどうにもならない願いは、確かにある。

リクオは目を閉じ、優雅な指先でそっと星の光をかき混ぜた。




渡された手拭いで濡れた手をぬぐっていると、背後から抱きつかれた。

「織姫と彦星が、なぜ引き離されたか知っているか?」

首筋に唇を押し当てられ、手拭いを取り落しそうになった。

「知ってる」

少し濡れたそれを返そうとしたが、鴆の両腕は腰にしっかり巻きついていて、離れそうにない。

そのまま縁側へ導かれ、膝に座らされた。

着物越しに伝わる鴆の身体が、熱い。

「想いが叶って一緒になったはいいが、閨事に没頭するあまり、二人とも仕事がおろそかになって、引き離されたって話だ。

オレたちも気をつけねえとな」

「…言ってることとやってることが一致してねえぞ」

そうは言っても、裾の合せ目から忍び込んだ手が腿を触り、

乞うように何度も首筋に口づけていた唇が耳朶を挟んで歯をたてれば、もう抗うことなどできなくて。

結局、この日も星や天の川を見るどころではなく、リクオは早々に閨へと引きずり込まれた。




――願わくは、ずっと一緒にいられますように。





旧暦七夕フェア(みんなで更新しようぜ的な)参加用のブツです。
盥に織姫彦星を映してあわせると願いが叶うというのは
Hない様からいただいたネタです。ありがとうございます!
まったくいつも通りのオチになってしまいましたが、こんなんでお題クリアできましたかね…?

 

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