星月夜
空気が澄んで、夜空がよく見える秋の夜。 少し肌寒い夜にはお互いの体温が心地よくて、 いつまでも共寝をしていたい、そんな季節。 久しぶりの逢瀬でひとしきり睦み合って、お互いの熱を分かち合った後。 テスト前でまたしばらく来れないとリクオが告げると、黒の混じった銀糸を梳いていた鴆は、途端に不満そうな顔をした。 「今日までだってご無沙汰だったじゃねえか。毎晩一体何やってんだ」 ここ最近出入りもないんだろ?と尋ねれば、リクオは髪を梳かれる感覚に心地よさそうに目を閉じながら、忙しいんだよ、と呟いた。 「そら忙しいよなあ。昼は学校、夜は修行、おまけにオレとこんなことをしてちゃあ」 鴆の言葉にリクオは弾かれたように目を開けた。何で修行のことを知っている、という無言の問の答えの代わりに、 鴆は先刻薬を塗り込んだ手のひらに唇を押しあてた。 鴆の手よりも一回り小さい、優美な形をした白い手のひらは、剣だこがさらに固くなり皮が剥けていて、全体がひどく荒れていた。 手のひらだけでなく、身体じゅうに生傷があった。 最近出入りがあったという話も聞かないから、毎晩夜更けまで何をやってこんな身体になるのか、およその推測はつく。 見透かされたと悟ったリクオは、手のひらを取られたまま、やや気まり悪そうに鴆の肩口に顔をうずめた。 「…わかってたんなら、もう少し控えやがれ」 くぐもった声で呟かれた文句は照れ隠しみたいなもので。腕に感じる、燃えるような頬の熱に、鴆の口元が自然と綻ぶ。 ああほんとうに、可愛くてたまらない。 「たまには学校を休んで、朝までゆっくりしていけよ。いつもせわしねえだろが」 毎晩誰も知らないところで頑張っている恋人を、とことん甘やかしてやりたくて、再び髪を梳きながら提案すれば、 今度は金色の目ではっきりと睨まれた。 「…てめー、オレの話聞いてんのか」 テストがあるっつってんだろ。 修行はともかく、人間の学校なら一日くらい休んでも、と思うのだが、そうはいかないらしい。 懐柔が失敗したことを悟ると、鴆も開き直り、態度をがらりと変えた。 髪を梳くのをやめてむくりと起き上り、リクオにのしかかる。 「またしばらく来れねえんだろ?なら寂しくならねえように、しっかりやっとかねえとな」 「ちょっ…冗談ッ…」 ニヤリと笑う男の豹変ぶりにリクオは焦ってもがいたが、鴆は逃がさなかった。 暴れる身体を難なく押さえつけ、先刻着せたばかりの襦袢の腰帯を再び解く。 「朝まで寝かせないぜ、大将」 「…ッ」 抗議は唇で塞いでしまった。
|
||