流れ星
今夜は流れ星がたくさん見られるというので、ござと毛布と酒と肴を朧車に積んで、 よく薬草を採りに来る山の一つに向かった。 「昔を思い出すなあ」 リクオが子供の頃にも、山で一緒に星を見たことがあった。 もっともあの時は、昼間に薬草を採っている間にリクオがどこかへ行ってしまい、 必死で探しているうちに夜になってしまったのだが。 そんな鴆の感傷を、リクオは「じじ臭ぇ」の一言で切り捨てた。 子供の頃のあれこれは、あまり話題にされたくないらしい。 二人はござに並んで座り、星降る夜空を眺めながら盃を傾けた。 「これだけ流れてりゃ、願い事も叶うかもしれねえな。あんたは何を願う、リクオ?」 魑魅魍魎の主となった男は静かに笑った。 「…願い事は、自分で叶えるさ」 虚勢も気負いもない、だが強い意志がこもった言葉だった。 月の光を集めたような金色の双眸が、鴆の視線をしっかりと捉えた。 「お前も、星なんかにじゃなく、オレに願えよ。 お前の望みは、オレが叶えてやる」 鴆は一瞬、虚を突かれたように押し黙り、それからニヤリと口端を吊り上げた。 「そうか?じゃあ今夜」 「閨(ねや)の話じゃねえよ。この助平」 なんだ、つまんねえ。とこぼしたら、肘で小突かれた。 笑いながら、再び星が流れ続ける夜空を眺めた。 人の寿命も、己の寿命も、星が流れる一瞬のように短い。 もしも、本当に願いが叶うなら。 少しでも長く、この幸せが続きますように。 願いを心の奥にしまい込み、月が映り込んだ酒を飲み干した。
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