心音
気がつくと、襦袢を着せられている最中だった。どうやらまた気を失っていたらしい。 汗やら体液やらでどろどろだった身体は今はさらりとして、乾いた布地の感触が気持ちいい。 意識がない者に着物を着せるのは結構大変だと思うのだが、手際がいいのはやはり薬師という職業柄だろうか。 寝苦しくないように少し緩めに帯を締めた後、たらいの水に浸した手拭いを絞る音がして、ややあってから衣擦れの音が続いた。自分の着物を着ているらしい。 そうしてやっと隣に潜り込んでくるのを待って、リクオは整えられたばかりの鴆の襟に手をかけてはだけさせ、露わになった胸に頭を乗せた。 こら、起きてたんなら自分で着ろ、と苦笑交じりに言う鴆の言葉を無視して、目を閉じたまま、薄い胸板から聞こえる心音に耳を傾ける。 胸に耳を押しあてているリクオの髪を、骨ばった大きな手が優しく梳いている。 しかし、目を閉じたまま、気持ちのままに、毒の模様の入った胸に唇を押しあてると、ぴくりと身体が動き、それまで穏やかだった鼓動は途端に乱れた。 「ったく、疲れてるみてーだから、今夜はあれで勘弁してやろうと思ったのによぉ…」 悪戯する元気があんなら、夜明け前までつきあってもらうぜ。 妖の目を物騒に光らせながら、低い声で鴆は言い。 夜明け前までって――病弱で体力のないはずの男が、何でこんな時ばっかり元気なんだ。 それでも、そんな男の現金さにも、安心してしまうどうしようもない自分がいた。 |
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